第三章:求めるは神話級

79.必要なもの

「――はあっ!」

『ゲバッ!?』


 鋭く振り抜かれた二振りの短剣によって、目の前のモンスターが細切れになる。

 俺は大人気VRゲームのワンアースの中で、時の人になっていた。

 それは前回のギルド対抗イベントにおいて、俺のギルドが並みいる強豪ギルドを差し置いて堂々の1位になったからだ。

 多くのユーザーが、多くのギルドが、俺が作ったDRギルドの本拠地を探し回り、自分たちの傘下に加えようと躍起になっている。

 ……とはいえ、ギルド設立のルールのおかげで、情報開示まで半日の猶予を得ることができた。

 たかが半日だが、それだけでも多くのユーザーの興味を失わせることはできた。

 それが何故かと言えば――


【ゴールドギルド、大炎上だな!】

【なんか戦い方変わった? アップされた動画見たけど、つまらなかったなー】

【変に欲をかいたからこうなったんじゃないの?】

【やっぱりゴールドはソロだよな、ソロ!】


 元は俺のアカウントだったゴールドが作ったゴールドギルドが、今回のイベントで大惨敗を喫したのだ。

 それを演出したのは俺なのだが、DRギルドよりも有名なゴールドギルドのおかげで、注目がそちらへと流れていった。

 特にSNSがゴールドギルド持ちきりになったのがありがたかったが……そうならない奴らもいたっけ。


【DRギルドのギルメンを探し出せ!】

【ギルマスを取り込むんだ!】

【きっと不正をしたに違いない!】

【俺たちで叩き潰すんだ!】


 こいつらは上位ギルドの奴らで、単純にDRギルドを取り込んで大きくなろうとする者や、不正を疑い叩き潰そうと画策する者と、反応を大きく分けるとこの二つになっている。

 前者はまあ好意的な感じだからいいんだが、後者は完全にこちらへ敵対心を抱いている。

 まあ、出てきたばかりのギルドがいきなりギルド対抗イベントでランキング1位を取ってしまったのだから疑われるのは仕方がない。

 だが、いきなり叩き潰すはないだろう。


「……いや、今はもうそうなっても仕方がないか」


 ランキングが出てからの半日は大丈夫だったが、それ以降はDRギルドの情報も他のギルドから閲覧できるようになっている。

 そして、ギルメンがいない一人ギルドであることもバレてしまったのだ。

 俺が周りの奴らだったとしても同じことを考えていた……いや、逆か。


「これくらい俺でもできるって考えるかもしれないな」


 ギルド対抗イベントの内容にもよるが、前回のような内容であれば問題ないはずだ。

 ってことは、後者の奴らは上位の中でもそこまで大きなギルドではないってことだろう。もしくは、質より数を優先したギルドとかかな。


「まあ、どちらにしてもこっちの対策はバッチリだから問題ないんだけど」

「ご主人様? さっきからどうしたのにゃー?」

「誰と話しているのー?」

「ん? あぁ、いや、気にしないでくれ。独り言だからな」


 思わず言葉が漏れてしまっていたようで、ニャーチとフィーから声を掛けられてしまった。


「今日はランキング1位の報酬が配布される日だし、楽しみだな」

「僕も楽しみなのにゃ!」

「ご主人様がさらに強くなるのー!」


 楽しそうにしてくれている二人の頭を軽く撫でながら、俺は街道を進んでいく。

 対策をしているとはいえ、それも万全とは言えないかもしれない。


「隠蔽スキルを使ってステータスを変えているが、これを看破するような奴がいないとも限らないからな」


 外から見える俺の名前、レベル、職業、ステータスなど、多くのものを隠蔽スキルで変更している。

 本来であれば見られることのないものだが、特定のスキルを使えば覗き見される可能性もゼロではないのだ。


「目的地までには報酬の配布もあるだろうし、ゆっくり行こうぜ」

「わかったのにゃー!」

「はいなのー!」


 俺は元気いっぱいの二人の声を聞きながら、ゆっくりと次の目的地――朽ち果てたダンジョンを目指すのだった。

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