66.神話級モンスター

 俺はゴールドを睨みつけたものの、すぐに視線をレイドボスの方へ向けた。

 その理由としては、レイドボスの方がゴールドよりも手強い相手だとすぐに理解したからだ。


「……おいおい、まさかこいつ――神話級モンスターかよ!?」


 美しい銀色の体毛を持つシルバーフェンリルを前に、余裕を保っていられるはずがない。

 即座に臨戦態勢を整えようとしたのだが、そこを邪魔してきたのは当然ながらゴールドだった。


「楓! 貴様はクビだ! 会社にいられないようにしてやるからな!」

「それで結構です! 私はもう、あなたのお守りをするのはまっぴらごめんですからね!」

「お、お守りだと!? 貴様、天童寺財閥の御曹司を掴まえておいて、なんだその言い草は!!」


 おっ? こいつ、天童寺財閥の御曹司かよ。

 ってことは……あー、あれだな。確かに天童寺財閥はワンアース運営に何かしら関わっていたか。

 昔に興味本位でワンアースの会社情報を覗いたことがあったけど、確かに名前があった気がする。

 ってことは、会社社長の息子が不正を働いていたってことになるんだよな?

 ……これ、公になったらマジでヤバくないか? 会社が潰れる可能性もあるんじゃないのか? こいつは、そのことに気づいているのか?


「あなたのやっていることは、犯罪なのですよ!」

「貴様、密告するつもりか! だがなあ、父さんがお前の言葉と俺の言葉、どっちを信じると思う? 間違いなく俺の言葉を信じるだろうなあ!」


 こいつ、マジでゲスだな。

 不正がバレそうになったら、さらに不正を犯してそれを隠そうって魂胆かよ。

 しかも、俺が手塩に掛けて育てたゴールドを使って!


「こいつ、聞いていたら自分勝手なことをぺらぺらと――」

『グルオオオオオオオオォォオオォォッ!!』


 俺が二人の間に入ろうとした直後、無視され続けて苛立ったのか、シルバーフェンリルが大咆哮をあげた。

 それだけでレベルの低い俺はスタン状態になってもおかしくはなかったが、そこを頼りになる霊獣が助けてくれた。


「エアドーム!」


 俺の周囲に風の結界が顕現すると、シルバーフェンリルの大咆哮を跳ね返してくれた。


「助かった、フィー!」

「はいなのー!」


 しかし、助かったのは俺だけであり、結界の外にいるフェゴールはゴールドに気を取られ過ぎてまともに大咆哮を浴びてしまった。


「ぐぅぅ、こ、これはっ!?」


 そして、ここでの大きな問題は、スタンになってしまったのがフェゴールだけであり、ゴールドはぴんぴんしているということだった。


「貴様は目障りだ。戦力ダウンは否めないが、ここで消えてもらおう!」

「な、何故、あなたは動けるのですか!」


 ここに神話級防具の真骨頂が発揮される。

 ゴールドが身に付けている金色の防具――ゴルハジャのフルプレートは高い体力補正を誇るだけではなく、状態異常への耐性が非常に高く、数値で表せば90%の確率で防いでくれる。

 一〇回に一回は状態異常に掛かってしまうが、そこを別の装備でカバーすれば完全に状態異常を防ぐことも可能だ。


「邪魔者は死ね、楓!」

「くっ!」


 大剣を持ち上げたゴールドが、その凶刃をフェゴールへ振り下ろそうと右腕に力を込めた。


「させるかよ!」

「レヴォ様!」

「ちいっ! 貴様、いったい誰なんだ!」


 俺がその首を斬り飛ばそうと隼の短剣を振り抜くが、ゴルハジャのフルプレートによって補正されたゴールドにダメージが入るはずもなく、ただ跳ね返されるだけだ。

 しかし、俺にとってはそれで十分で、僅かに狼狽えたゴールドの隙を突いてフェゴールを回収して大きく距離を取った。


「……ははっ! なんだ、てめぇもザコだな!」


 どうやらダメージがないだけで、俺のことをザコだと判断したらしい。

 やっぱりこいつは、ワンアースをまともにプレイしたことのない、ただのボンボンだったみたいだな。


「このゴールド様がわざわざ止めを刺してやるんだ、ありがたく思うんだな!」

「お前が俺に止めを刺すだと? ……はっ! 何を寝ぼけたことを言ってやがるんだ?」

「……なんだと?」


 俺はここぞとばかりに乗っ取り野郎を挑発していく。


「まあ、俺がザコだって言うなら、お前はなんだ? カスか? ゴミか?」

「き、貴様ああああっ!」

「ゴールドだからってなぁ、なんでもてめぇの思い通りになるなんて思わないことだな!」

「……この俺様を罵ったこと、これから永遠に後悔させてやるぞ!」

「やれるもんならやってみろよ。まあ――お前はここで終わりだけどな」

「何わけのわからないことを――」

『グルオオオオオオオオォォオオォォッ!!』


 ゴールドはこちらばかりに気を取られているが、それが大きな間違いなんだよ!


「フィー!」

「エアドーム!」

「ははははっ! 俺様に状態異常は効かないんだよ!」

「それはどうかな?」


 ニヤリと俺が笑った直後、大咆哮がゴールドへと襲い掛かった。

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