67.シルバーフェンリルの実力

「続けて――エアウォール!」

「はいなのー! エアウォール!」


 シルバーフェンリルの攻撃パターンはすでに頭の中に入っている。

 大咆哮で動きを止め、そこへ強靭な前脚を振り下ろして叩き潰す。

 しかし、大咆哮でスタンにならない相手には別の攻撃パターンが存在している。


「聖なるブレスが来るぞ!」


 大咆哮と共に口から吐き出されたのは、銀色の光が眩しく美しい、聖なるブレスだった。

 聖なると言えば聞こえはいいが、その威力はあまりにも強烈で、ゴルハジャのフルプレートを装備していたとしても大ダメージは確実だろう。

 俺ですら聖なるブレスに関しては絶対に直撃を避けていたのだが、乗っ取り野郎は完全に勘違いしていたようだ。


「な、なななな、何なんだ、これはああああっ!?」


 大咆哮が来ると勘違いしていた……いや、厳密には大咆哮も放たれているので間違いではないのだが、聖なるブレスが来るとは思ってもいなかったんだろう。

 聖なるブレスの前兆を知っていれば、こうはならなかっただろうに。

 さらに、ここで俺にとって最高の結果が訪れてくれた。


「……な、なんだ? 体が、動かない?」


 ここに来て、ゴールドは10%の確率を引いてしまったようだ。

 せめて防御態勢を取れればダメージを多少なり軽減できたはずだが、スタン状態であれば聖なるブレスの攻撃力丸々のダメージが入るはずだ。

 俺の記憶通りのゴールドであれば、一撃くらいなら耐えられるはずだが……まあ、レベルも上がっているだろうし、さすがに耐えてくれるだろう。

 そして、弱ったゴールドをシルバーフェンリルが狙っている間に、俺たちはさっさとこの場を離れよう。

 レイドボスを倒せないのは勿体ないが、さすがに伝承級武器しか持っていない現状で神話級モンスターを倒すのは厳し過ぎる。

 やろうと思えばやれるんだが、今の俺にはフェゴールもいるし、ボーンヘッドギルドが1万位以内に入れるよう動かなければならない。

 ……まあ、ボーンヘッドギルドに関しては約束を反故にしたとしてもレイドボスに倒されたとでも言えばどうとでもなるが、フェゴールが倒されるのは気が引けてしまう。

 こいつもある意味で巻き込まれたようなものだからな。


「ぐ、ぐおおおおああああああああぁぁぁぁああぁぁっ!?」


 聖なるブレスがゴールドを飲み込み、直線状にいた俺たちへと迫ってくる。

 エアウォールにぶつかり、数秒後には破壊されてしまうと、続けてエアドームに激突する。

 魔法の耐久値はエアウォールと同じ100なので、こちらもすぐに破壊されてしまうだろう。


「フェゴール、動けるか?」

「は、はい! 大丈夫です!」

「すぐにこの場から離れるぞ!」


 スタン状態から解放されたフェゴールが自分の足で立つと、俺たちは全力で聖なるブレスの射線上から逃れる。

 直後にはエアドームが砕け、先ほどまで俺たちがいた場所に巨大な穴が出来上がっていた。


「うおっ! 危なかったなぁ」

「あ、ありがとうございます、レヴォ様」

「それにしても、ゴールドはどうなったんだ?」


 俺はそう口にすると、先ほどまでゴールドが立っていた場所に視線を送る。

 頼むから生き残っていてくれと願いながら砂煙が晴れるのを待っていたのだが……ここでまさかの展開が起きていたことに気がついてしまった。


「……あ、あれ? なあ、フェゴール。あの光って確か――死亡エフェクトの光だよな?」


 俺が確認のために声を掛けると、フェゴールは間違いないと大きく頷いた。

 ……マジかー。乗っ取り野郎のゴールド、今の一撃で死んじまったかー。

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