64.レイドボスVSゴールド
「――どっせええええええええぇぇいっ!」
ゴールドは大剣を振り下ろしてレイドボスへ攻撃を加えている。
その動きは大振りであり、ランカーがその動きを見ればあまりにも雑過ぎてため息を漏らしたに違いない。
それでも大剣自体は神話級の装備であり、ただぶつけるだけでもダメージは多少なり入るはずだ。
しかし――レイドボスがその程度で倒れるほど弱いはずもなかった。
『グルオオオオオオオオォォオオォォッ!』
「ちいっ! クソがっ! なんでこんなに強いんだよ! この――犬っころがあっ!」
レイドボスの正体は、フェンリルだった。
それもただのフェンリルではなく、銀色の美しい体毛を持ったシルバーフェンリル。
等級で言えば最高の神話級モンスターは、高い柔軟性と強度を誇る体毛をもってして、神話級武器を容易く受け止めていた。
「なんなんだよ、この武器は! 本当に神話級なんだろうなあっ!」
同じ神話級武器でも使い手が変わればその価値を発揮することは難しい。
事実、光輝が操るゴールドであれば、目の前のシルバーフェンリルを相手に神話級の大剣を振るい、四肢や尻尾を両断することも可能だっただろう。
しかし、それと同じことが百弥にできるはずもなく、彼は意味のない攻撃を淡々と繰り返すしかできなかった。
『グルオオオオオオオオォォオオォォッ!』
「ぐがあっ!?」
シルバーフェンリルの前脚が鋭く振り抜かれると、回避が間に合わずゴールドに直撃する。
間一髪で大剣を盾としたものの、シルバーフェンリルの膂力に負けて大きく後方へ吹き飛ばされてしまった。
「あ、あの野郎っ! ……なんだ? ダメージが、全くないじゃないか」
神話級武器は役に立たないが、神話級防具は間違いなくシルバーフェンリルの攻撃を受け止めていた。
「……ははっ! なんだ、ザコだな!」
ここでゴールドは大きな勘違いをしてしまう。
防御力は体力の数値と装備の能力によるものだが、攻撃は装備だけではなくユーザーの操作によって大きく変わってくる。
さらに言えば、シルバーフェンリルにはほとんどダメージはないものの、実のところゴールドはそうではない。
ワンアースではシステム上、痛覚の設定を変更することが可能となっている。
光輝は痛覚設定を通常にしており、現実で傷を負った時と同じような痛みを感じるようにしていたのだが、百弥は違っていた。
痛覚設定を最弱にしており、大ダメージであっても軽く肩を殴られた程度の痛みしか感じないようになっている。
今回で言えば、神話級防具のおかげでダメージは少量となり、ほとんど痛みを感じない程度のダメージだった。
故に、百弥は勘違いしてしまう。ダメージが全くないのだと。
「これならばギルメンが集まれば、どうということはないな!」
そうして結局は、周りを頼ることになる。
自分がこの場でシルバーフェンリルを抑え込めば、それだけでギルドメンバーから称えられるだろうと勝手に考えていた。
しかし、百弥が考えた通りになるはずもなく、さらに言えばこの場にギルドメンバーが集まることもない。
そうとは知らない百弥は神話級防具の能力を頼りに防御を固め、時折大剣を振るい微々たるダメージをシルバーフェンリルに与えていく。
「さあ、来い! 俺様はここで、シルバーフェンリルを抑えているぞ!」
あまりにも悲しい雄叫びが、フィールドにこだましたのだった。
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