63.再接近

 俺はデスハンドに連絡を入れると、急いでレイドボスが出現した場所へ来るように伝えた。

 何やら文句を言っていたように思えたが、そこは聞こえないふりをして連絡を切った。


「今のでよかったのですか?」

「あいつは俺に逆らえないからな。まあ、大丈夫だろう」


 逆らったところであいつらに旨みなんて全くないからな。

 まあ、裏切ったとしても、そうなればあいつらがランキング1000位以内に入ることはなくなるだけなんだが。


「それで、レヴォ様。本当にこのままレイドボスのところまで向かうのですか?」

「当然だろう。相手がゴールドなら、多少なりダメージを与えてくれるだろうからな。そこをしっかりと横取りしてやるんだよ」


 というか、ゴールドにレイドボスを倒されてしまったら、せっかくの苦労が全て水の泡になってしまうからな。それだけは絶対に避けなければならない。


「フェゴールに連絡はあったか?」

「いいえ、私にはありません」

「ってことは、ゴールドは完全にお前を切ったってことだな」

「そうなります」


 ……マジで悔いとか一切なさそうな返事だな。


「そうなると、フェゴールがゴールドと一緒にレイドボスにダメージを与えるのは無理そうだな」


 となると、取れる作戦は限られてくる。

 そして、その中で最高の結果をもたらしてくれるものとなれば当然――


「ゴールドを倒しつつ、レイドボスも俺が奪う」

「確かにそれができれば最高ですが……可能、なのですか?」

「さぁな。だが、レイドボスだってそう柔な相手じゃないだろうし、可能性はゼロではないんじゃないか?」


 ゴールドとレイドボスが戦えば、確実に両者へダメージは入るだろう。

 俺たちがやるべきことは、ダメージが多く入っている方を先に狙い、続いて残った方を攻撃する。

 レイドボスが残った場合は絶対に倒さなければならないが、ゴールドが残った場合はそうではない。

 ゴールドギルドに関してはレイドボスを倒せなければ絶対にランキング1位は無理だし、今の順位から1000位以内に入るのも難しいだろう。

 言ってしまえば、レイドボスさえ倒されなければ俺の目標はすでに達成されたようなものなのだ。


「まあ、レイドボスだけは絶対に倒させない、それが絶対的な目標だな」

「かしこまりました」


 ここでも即答をしたフェゴールに対して、俺は気になっていたことを聞いてみた。


「なあ、フェゴール」

「なんでしょうか?」

「お前はリアルでも乗っ取り野郎とかかわりがあるんだよな? しかも相手は御曹司だろう? リアルのお前の生活は大丈夫なのか?」


 ワンアースは言ってしまえば、ただのゲームだ。

 こんなゲームのためにフェゴールは、自分の人生が大きく変わろうとしているに違いない。

 今さら感はあるものの、俺はそこが心配になってしまった。


「……私は、ワンアースが好きです」


 俺の質問に対して、フェゴールはゆっくりと口を開いた。


「そして、私がワンアースを好きになった理由の一つが、ゴールドだったのです」

「ゴールドって……俺が操作していた時のゴールドってことか?」


 俺の質問にフェゴールは頷いた。


「ですが、あの人の下についた時から、私はワンアースを嫌いになり始めていました」


 まあ、好きなゲームの不正にかかわらされていたんだから、嫌いにもなるだろうな。


「特に、私が尊敬してやまないゴールド様を陥れる今回の行為を強制された時は、死んでしまっても構わないと思っていました」

「いやいや! それはさすがに思いつめ過ぎだからな!」


 俺にとっても人生を左右する出来事だったが、巻き込まれた感の強いフェゴールがそこまで思い詰めているとは思わなかった。

 ……というか、そこまでゴールドのファンだったら、乗っ取りをする前に何かしら行動を起こしてほしかったな。


「それからしばらくゴールドと行動を共にしていたのですが、自らのアカウントを私へ簡単に譲ったり、新人ユーザー狩りを他ギルドに依頼したり、これからのワンアースが衰退してしまうような行動ばかりが目につきました」

「だから今回、裏切りを決意したのか?」


 その言葉には苦笑しながら首を横に振った。


「単に裏切るだけではゴールドを倒せないと思っていたので、すぐに裏切るつもりはありませんでした。ですが今回、ゴールドギルドへ襲撃を企てた救世主が現れたのです」

「きゅ、救世主って……」


 俺がそう呟くと、フェゴールはニコリと笑った。


「今の生活は精神的にきついものがありましたし、手放しても問題はありませんでした。だから今回、私も動いたのです」


 ここまでフェゴールの話を聞いた俺は、大きく頷いた。

 俺もワンアースが好きだ。それこそ人生を掛けてもいいと思えたくらいにゴールドには時間とお金を掛けていた。

 俺と同じく、フェゴールもワンアースに人生を掛けてもいいと思えるくらいに、ワンアースのことが好きなんだろう。

 ……だからこそ、俺は乗っ取り野郎が許せなくなった。

 これだけワンアースを好きでいてくれる人間を、ワンアースで苦しめていたのだから。


「……絶対に、ぶっ潰してやろうぜ」

「……はい!」


 決意を新たにしたところで、俺たちは前方から激しい戦闘音が聞こえてくる位置までやって来ていた。

 この先に、ゴールドとレイドボスがいるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る