59.ランカー

「あの人は、自分が選んだ人間が裏切るだなどとは全く思わない人間なんです」

「……はあ? いやいや、アースザウルスとの戦闘を見ていたが、あんな態度の奴ならすぐにでも裏切られるだろうが」


 実際にフェゴールは裏切っているわけだしな。


「はい。事実、レヴォ様がいなくなったあとだとは思いますが、あのあとに多くのギルドメンバーが自らイベントから離脱いたしました」

「だろうな」

「ですが、それはあの人が直接選んだメンバーではないからです。私はリアルでもあの人と繋がりがあります」

「なるほどね。あんたは乗っ取り野郎が直接選んだ精鋭ってわけだ」

「そういうことになります。なので、自分の選択に間違いがあるはずはないと思い込んでおり、私が裏切るだなどとは思っていないはずです」


 ってか、どうしてこいつみたいな頭の良さそうな奴が乗っ取り野郎なんかに従っているのやら。

 ……あぁ、乗っ取り野郎は御曹司だったな。


「あんたは問題児のお守りを任されているってわけか」

「……そうなります」


 最後の返事だけは苦笑しながらになっていた。

 ……なんていうか、こいつも可哀想な奴なんだなぁ。


「あんた、ワンアースの実力は高い方なんだろう?」

「どうしてそう思うのですか?」

「アースザウルスとの戦闘を見たからな。慣れないアカウントであれだけのことができたんだ、自分のアカウントならもっと上手くやれたんじゃないのか?」


 俺がそう口にすると、フェゴールは何故かとても嬉しそうな笑みを浮かべた。


「そ、そんな! レヴォ様が操るゴールドに比べれば、私など子供も同然ですから!」

「そ、そうか?」

「はい!」


 ……何がどうなっているのやら。


「と、とにかく! ゴールドがこっちに来ないとして、今はいったいどっちに向かっているんだ?」

「あっ、はい! ゴールドですが……ボーンヘッドギルドの幹部たちが向かった方向へ進んでいるようです」


 ってことは、あいつらはほぼアウトだな。

 うーん、ボーンヘッドギルドには1000位以内に入らせるって約束をしているから、あまり犠牲になってほしくないんだがなぁ。


「……デスハンド、聞こえるか?」


 というわけで、俺はフレンド登録をしていたデスハンドへ連絡を取った。


『――……あぁん? なんだ、どうしたんだぁ?』

「お前の仲間たちの方にゴールドが向かってる。南に逃げるよう指示を出してくれ」


 俺はそう口にしながらフェゴールへ視線を向けると、彼女は無言で頷いてくれた。


『――ちっ! おいおい、それで本当に俺たちが1000位以内に入れるんだろうなぁ?』

「そのために逃げろって言ってるんだよ。いいから指示を出してくれ、お前とコープスが難儀をすることになるんだぞ?」

『――だぁー、わかったよ! 畜生、俺はギルマスだぞ、ギールーマースー!』

「ギルマスだろうが! 頼んだからな!」


 最後は怒鳴りながら連絡を切ると、俺は小さく息を吐く。


「ゴールドギルドがあと何人残っているのかはわかるのか?」

「はい。幹部には何人ログインしているのか、イベント中であれば何人生き残っているのかもわかります。現在ですと……私も含めて残り三五人です」


 意外と多いなぁ。

 ゴールドが仲間を罵倒した瞬間にいた奴らはすでにいないだろうし、ってことは別行動をしていた……いいや、させられていた奴らと言った方がいいかもしれないな。


「そいつらのレベルはどれくらいなんだ?」

「あまり高くはないですね。……いえ、一人だけランカーがいます。確か彼は――」

「――おいおい、まさかあんたが裏切り者だったのかよ~」


 ……どうやら、そのランカーさんがお出ましになったみたいだな。


「ってことは、俺があんたを倒せばそのまま腹心になれるチャンスってことか~? 滾るねぇ~、こいつは滾るぜぇ~!」


 そう口にした赤髪のランカーは――一直線に巨大な戦斧を持ち上げて突っ込んできた。

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