58.乗っ取り野郎と運営
「――レヴォ様、ゴールドが直接動き出したようです」
俺たちは今、いくつかのグループに分かれて行動している。
俺とフェゴール、デスハンドとコープス、残りの幹部たち、といった具合だ。
正直なところ、デスハンドたちが俺を裏切る心配もあったのだが、すでにゴールドギルドに攻撃を仕掛けたあとである。
もし裏切ったとしても、あいつらもターゲットになっているだろうし、そうなれば俺は一切助けないつもりだ。
だからこそデスハンドが裏切ることはないと思っている。
むしろ、俺はまだフェゴールを完全に信じたわけではないので、こいつを側に置いているのだが……。
「な、なあ。そのレヴォ様ってのは止めてくれないか?」
「……? どうしてですか?」
「いや、様付けとか必要ないだろう」
「私はレヴォ様に従うと決めておりますので、そうしているのですが?」
……こいつ、マジで言っているのか?
そう疑問を抱いたのだが、目がマジというか、嘘っぽい雰囲気が一切ない。
きっと、本気なんだろうなぁ。
「……はぁ。とりあえず、裏切るようなことはないって思っておけばいいのか?」
「もちろんです、レヴォ様」
「独り言にまで反応するんじゃねぇよ!」
「わかりました、レヴォ様」
「……はああぁぁぁぁ」
盛大なため息をついたところで、俺はこれからどのように動くべきかを考えることにした。
「気を取り直すか。あー、ゴールドが動き出したんだったか?」
「はい。ギルドの場合ですと、マスターはギルドメンバー全員の行動を把握できます。逆に、ギルドメンバーは他のメンバーの動きを把握することはできませんが、マスターの動きを把握することは可能です」
確か、ギルメンがギルマスのピンチに駆けつけられるように、だったか?
「もちろん、そのように設定することで可能なわけでして、マスターが設定しなければそうはなりません」
「ってことはゴールドはギルメンが自分の居場所をわかるようにしていたってことか?」
「はい。ただ、先ほども言いましたがマスターはメンバーの動きも把握できます。つまり――」
「お前の動きを把握しているってことか」
ってことはつまり、ゴールドは間違いなくこいつのところに来るんじゃないのか?
「……お前、俺をはめたな?」
「ち、違います!」
「どう考えてもおかしいだろう。お前が向かう先々でギルメンが死んでいっているんだぞ? 普通に考えたらお前が裏切ったと思うのが普通なはずだ」
「……普通に考えれば、そうでしょう。ですが、ゴールドは……あの人は違います」
乗っ取り野郎のことか。
「私が言うのもなんですが、あの人はワンアースがそこまで上手くはありません」
「だが、そのアカウントは元々乗っ取り野郎のだろう。デスハンドが言うには、全世界ランキング2位、俺の次ぎだった奴だろうに」
そんな奴が上手くないとはどういう了見だよ。他のユーザーが全員下手みたいな言い方じゃないか。
「……あの人は、その順位を買収していたんです」
「……はあ? いやいや、あり得ないだろう」
ランキングの買収が可能であれば、俺が1位の座に居座り続けたこと自体がおかしな話になってくる。
どうしてわざわざ2位という順位を買収したのか。何故1位を買収しなかったのか。
「……あの人は、ワンアースに社員を出向させている会社の一つ、そこの御曹司なのです」
「だからなんだ? 御曹司だからなんでもしていいってわけじゃないだろう」
「もちろんです。ですが、あの人はそのやってはいけないことに手を出してしまった。自分が一番でなければ我慢ならず、ランキングを買収しようにもランキング1位という座だけは出向している社員にいくらお金を握らせてもどうにもならなかったようなのです」
へぇー。俺が運営に問い合わせた時の対応を見たら酷いものだったけど、そこだけはしっかりと管理しているってことか? マジでムカつくわ。
いや、1位のゴールドに関しては金の生る木みたいなもんだから守りたかったってことかもしれないな。
「今回のギルド対抗イベントも、無理やりねじ込んだイベントだったんだろう?」
「……仰る通りです」
ほら見たことか。
ねじ込もうとしたのは乗っ取り野郎の手下かもしれないが、それを受け入れたのは結局のところワンアース運営ってことじゃないか。
「……それで? 乗っ取り野郎が全世界ランキング2位という立場を買収していたって話はよーくわかった。だが、それがどうしてこっちに来ない証明になるんだ?」
ワンアースが下手だからとはいっても怪しいところくらいは勘づくだろう。
まさか、それすらもわからないバカってわけじゃないだろうし。
俺がそう問い掛けると、フェゴールはゆっくりと答えを口にした。
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