57.急降下
(――くそっ! 何故だ、どうしてこうなった!)
二日目の中間発表を前に、ゴールドはギルドメンバーからの報告を待ちながら非常に苛立っていた。
それはアースザウルスを強奪していったユーザーが見つからないこともあるが、それ以上に捜索へ当たっているギルドメンバーがことごとくログアウトしている現状があったからだ。
(楓はどうした! 俺様のアカウントを譲ってやったというのに、仕事の一つもできんのか!)
特に楓が操るフェゴールの働きには不満を募らせており、ゴールドの中では戻って来たら即座に幹部の座を剥奪、一人のギルドメンバーとしてこき使おうと考えていた。
「ほ、報告です!」
「今度は何だ!」
「ふ、再びギルメンが倒されました! その数――一五!」
「ふざけるなああああぁぁっ!」
「し、四方に散っているはずのギルメンが一斉に倒されています!」
「黙れ! 貴様は報告することしかできないのか! さっさと敵の首を落としてこい!」
「わ、わかりました! 失礼いたします!」
報告に来たギルドメンバーは慌てて踵を返すと、その場をあとにした。
ゴールドの周りには誰もいなくなり、静寂の中でギリギリと歯ぎしりの音だけが響き渡る。
(絶対にぶち殺してやる! 俺様は全世界ランキング1位のゴールド様だ、ここからさらに金をつぎ込んで誰も追いつけない、唯一無二の存在になってやるんだ!)
光輝が操るゴールドは乗っ取られる前から誰も追いつけない、言ってしまえば百弥が操る全世界ランキング2位のフェゴールでも追いつけない、規格外の実力を有していた。
その時点で唯一無二の存在だったのだが、彼はそうなりたかった。
しかし、ゴールドのアカウントを手に入れたとはいえ、現時点で彼が唯一無二に慣れているかといえば、なれていない。
それは百弥が光輝ではないからだ。
ワンアースというゲームを真摯にプレイし、やり込み、知識を蓄積させてきた光輝が操るゴールドだからこそ、誰も追いつけない唯一無二のユーザーになり得たのだ。
――ピコン!
ゴールドが次にどうするかを思案していると、ワンアース運営からメールが届いた。
「ちっ! ようやく二日目の中間発表が出されたか」
ゴールドとしては中間までの結果はそこまで重要視していない。
というのも、ランキング1位を目指そうとモンスターを狩りまくっていたのだが、並行してレイドボスを探していたが見つからなかった。
ギルドメンバーを全域に派遣しても見つけられなかったところから、一定の時間を経過しなければ出現しない設定なのだろうと判断したのだ。
そして、その時間というのが二日目の中間発表後であり、現時点での順位はそこまで重要視していなかった。
しかし――あまりにも予想外な順位を見たゴールドのこめかみには怒りのあまり血管が浮き上がっていた。
「……ふ、ふざけるなああああっ! 俺様のゴールドギルドが――1000位に入っていないだとおおおおっ!!」
本来であれば設立直後のゴールドギルドが100位以内に入って注目を浴び、最終的には1位を獲得して大喝采を浴びるはずだった。
しかし、蓋を開けてみれば名前が表示される上位1000位以内にすら入っておらず、悪い意味での注目を浴びることになってしまった。
「く、クソがああああっ! これも全て、俺様の邪魔をしやがったあの野郎のせいだ! 絶対に引きずり出して、ワンアースがプレイできなくなるくらい叩き潰してやる!」
歯ぎしりを強くしながらメールボックスに目を向けるが、ギルドメンバーから邪魔者を見つけたという報告はいまだに届かない。
このままただ待ち続けるのも時間の無駄だと判断したゴールドは、ついに重い腰を上げる。
「……仕方がない。誰も頼りにならないなら、俺が出てやる! ゴールドの力を、見せつけてやる!」
ゴールドは強い。それは紛れもない事実だ。
しかし、それを操る百弥も強いかといえば、そうではない。
ゴールドのアカウントを手に入れたことで、金の力で全世界ランキング2位という地位を買ったことで、百弥は自分が強くなったと錯覚してしまったのだ。
「かかかっ! 俺様が直々にぶち殺してやる! 待っていやがれ、邪魔者野郎が!」
怒りに燃える瞳をぎらつかせながら、ゴールドは大剣を手に歩き出したのだった。
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