56.決断

 しかし、これは本当に決断が迷われる。

 すでに賽は投げられているので断る理由はないのだが、ゴールドを裏切る奴が俺を裏切らないなんてことがあるのだろうか。

 自分かわいさにこちらを裏切り、再びゴールドへ寝返る可能性だってあるだろう。


「……お前が俺を裏切らない保証はないだろう」

「一度を裏切れば、二度とその者を手元には起きません。彼はそういう男です」

「言いようはあるだろう。俺を誘い出すために裏切ったふりをしたとかな」

「それはそうですが……そこはもう、あなたに信用してもらうしかありません」


 ……まあ、それもそうか。


「わかった。それで、いったいどうするつもりなんだ?」


 裏切ると決めたのだから、ゴールドを陥れる策くらいは考えているだろう。

 それによってはその策をそのまま採用するか、俺が考える必要があるかを決めようか。


「簡単に二つあります。一つはこのまま私を殺して退場する」

「論外だな。それならあのまま戦っていても問題はなかっただろう」

「その通りです。ですが、あなた方も無傷では終われなかったでしょう?」


 ……悔しいが、フェゴールの実力を見れば間違いないだろうな。

 俺はしのげるだろうが、間違いなくボーンヘッドギルドの幹部どもの大半はやられていただろう。


「それじゃあ、二つ目はいったい何なんだ?」


 フェゴールにとって、二つ目の策が本命なんだろう。


「私の片腕を斬ってください。そして、人質としてゴールドに差し出すのです」

「ゴールドがお前を助けるためにその身を差し出すとか?」

「それはありません」

「即答かよ」

「彼は自分が一番ですから、私の命なんて天秤にすら掛けられないでしょう」

「それならどうするつもりなんだ?」


 人質にしたところでどうせ見捨てられるなら、人質にする意味がない。

 さて、フェゴールはいったいどう答えるつもりなんだ?


「……ゴールドもギルド幹部である私がやられたとなれば自分が大事とはいえ、多少は動揺するはずです。その隙を突いて――私がゴールドを倒します」

「無理だな」

「ど、どうしてですか!」


 これこそ論外だ。

 フェゴールは俺の怒りがどれほどのものかを全く理解していない。


「ゴールドを倒すのは俺だ。それも一度だけじゃない、何度だって倒し続けてやる。乗っ取った奴がどんな野郎かはしらないが、そいつがワンアースをプレイしたくなくなるくらい徹底的に叩き潰してやる!」

「ですが、相手はゴールドですよ? そのことを一番理解しているのはあなたでしょう?」


 当然だ。何せあれは俺のアカウントだったんだからな。

 だからこそ、あの装備を貫くにはフェゴールの装備ではダメなのだ。


「あんたが使っているその槍、等級はどれくらいだ?」

「……伝説級ですが?」

「それじゃあダメだ。ゴールドの装備は全身神話級で固めている。それでは装備に傷をつけることすら難しいだろうぜ」

「それはあなたも同じでしょう! むしろ、装備の等級だけを見れば私の方がより良い装備を持っています!」


 フェゴールの言うことに間違いはない。

 だからこそ、ゴールドを倒すなんてことは今の時点で考えるべきではないのだ。


「簡単だ。ゴールドを倒すことはしない」

「……なんですって?」

「その代わりに、ゴールドに協力しているギルメンを確実に倒していく」

「……あなたの目的は、ゴールドへの復讐ではないのですか?」

「それが目的だ、当然だろう」


 しかし、あくまではそれは最終的な目的であり、そこへ行きつくまでの過程も俺にとっては大事な復讐劇の一部なのだ。


「今の時点でゴールドを倒すだなんてまず無理だ。奇襲をしようが、意表を突こうが、どうやったって神話級の装備に勝てるはずがない」

「ならば、どうするのですか?」

「ゴールドが嫌がることをとことんやってやるのさ! まずは今回のギルド対抗戦、ゴールドギルドを1000位以下に追いやって大恥をかかせてやる! そしてこれからもゴールドが何か行動を起こすたびに、俺はそれを邪魔してやるのさ!」

「……私には理解できません」


 だろうな。俺だってゴールドが乗っ取られるなんてことがなかったら思いもつかなかっただろう。


「……ですが、今の彼には間違いなく一番精神的にダメージを食らう方法でしょうね」

「俺の策に乗るか? 決めるのはあんただぜ?」


 俺がそう口にしたタイミングで、ボーンヘッドギルドの面々が戻ってきた。

 誰一人として欠けることなく、ゴールドギルドの増援部隊を倒してしまったのだ。


「……どうやら、私にも選択肢はなさそうですね」

「当然だ。そっちが先に話を振ってきたんだからな」


 小さく息を吐き出しながら、フェゴールはこちらに手を差し出してきた。


「協力させてください」

「裏切るなよ?」

「もちろんです。すでに賽は投げられたのですから」


 どうやらフェゴールも同じことを考えていたみたいだな。

 俺は差し出された手をしっかりと握り、ここにフェゴールとの協力関係が成立した。

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