55.説得
「くっ! お願いです、どうか話を!」
「黙れ! 相手のことも考えずに卑怯な真似をする奴の話なんて、聞く意味なんてないね!」
敏捷が大幅に減少したおかげもあり、フェゴールは明らかな劣勢に立たされている。
しかし、それでもこちらの攻撃を捌き続けているのを見ると、こいつが実力も伴ったユーザーであることがよくわかる。
だからこそ、変にこいつの言葉に耳を傾けようものなら強烈な反撃が飛んでくるに違いない。
一瞬の隙が、こちらの敗北に繋がってしまうだろう。
「デスハンド! お前、手を抜いているんじゃないだろうな!」
「あぁん? てめぇ、俺様がそんなことするかよ!」
「このままでは、やむを得ませんね!」
何かを企んでいるのか、フェゴールは大きく飛び退くと何やらステータス画面を操作し始めた。
「やらせるかよ!」
「残念ですが、こちらはショートカットキーに設定しているのですよ!」
「やっぱり用意周到じゃないか!」
「あなたが私の話を聞いてくれないからでしょう!」
「おいおい、これはさすがにマズいんじゃねぇかぁ?」
くそっ! こいつ、フレンドリストから増援を呼びやがったな!
最初こそデスグラビティが成功して勝てると思っていたが、フェゴールが防御にだけ力を注いでいるせいで攻めきれていない。
こうなる前に最速で倒しておく必要があったんだが、なかなか上手くはいかないものだな。
「いいですか、お聞きなさい! 今からこちらへ来るユーザーはそこまでレベルは高くありません!」
「お前、何を言っているんだ?」
「いいから話を聞きなさい! 私はあなたに話があります! あなたが聞いたというゴールドとの会話の件です!」
……こいつ、マジで何を考えているんだ?
「そちらのボーンヘッドギルドの戦力であれば対処できるはずです!」
「なんだぁ? 俺らを利用しようってかぁ?」
「彼と話をするためです! お願いします!」
ったく、いったい何がどうなっているんだか。
……いや待て、一度冷静に考えるとしよう。
もしもこれが罠であれば、増援の実力がボーンヘッドギルドよりも上である可能性が高い。
そうなるとボーンヘッドギルドは退場、デスハンドのデスグラビティも解除されることになりフェゴールが本来の実力を取り戻すことになる。
しかし、フェゴールの言っていることが本当であれば、ゴールドギルドの戦力を倒せるだけではなく、上手くいけば最大戦力であるこいつも削ることができるかもしれない。
ハイリスク、ハイリターンだな、これは。
「もうすぐ視界に入ります、ご決断を!」
「選択肢はねぇんじゃないかぁ?」
「……………………わかった」
どのみち、俺たちだけでゴールドギルドを1000位以下にするのだって割に合わない確率だったんだ。
それならば、こっちの方が確率的には高いだろうさ。
「増援はあちらの方からやってきます」
「そんじゃまあ、俺たちはあっちを片付けてくるぜぇ」
「頼む」
「ギルド対抗戦のポイントの件、忘れるんじゃねぇぞぉ?」
「そんなことを言って、お前も倒されるんじゃないぞ?」
「ははっ! 言うじゃねぇか! 野郎ども、行くぞぉ!」
「「「「おうっ!」」」」
デスハンドの掛け声に合わせて走り出したボーンヘッドギルドを見送ると、俺はフェゴールと相対する。
こいつの提案に乗ったとはいえ、信じたわけではない。
「お前は武器を捨てろ。話をするのに武器は必要ないだろう」
「わかったわ」
文句の一つでも言ってくるかと思ったが、素直に武器を足下に置くだけではなく、蹴ってこちらの足下まで移動させた。
「……すまないが、俺はまだお前を信用していない。こちらは武器を持たせてもらうぞ」
「もちろんです。……それだけのことを、あの人はしてしまったのですから」
……やはりこいつは、リアルでも乗っ取り野郎と知り合いらしい。
「それじゃあまあ、そっちの話を聞かせてもらおうか。俺の目的がなんなのかは察しがついているんだろう?」
「えぇ、もちろんです」
フェゴールは俺から目を逸らすことなく、真っ直ぐに見つめながら続けて言葉を発した。
「私は――ゴールドを潰そうとしているあなたに協力するわ」
……おいおい、まさかの裏切り行為かよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます