54.フェゴール
「止まりなさい!」
俺たちが進んだ先はゴールドギルドがいる場所とは別の方向だった。
しかし、先ほどの戦闘にも参加していたユーザーと出会うことになるなんて。それも――アースザウルスに風穴を開けたユーザーに。
「……なんだ? 急いでいるんだが?」
「……あの風貌……げっ! こ、こいつは!?」
「デスハンド、知っているのか?」
「いや、お前が知らないのがマジで意味わからん」
見たことはあると思うんだが、それがどこの誰かなんてわかるはずがない。
まあ、ランカーであることに変わりはないんだろうけどな。
「私はフェゴール。ゴールドギルド所属で全世界ランキング2位のユーザーです」
「全世界ランキング2位?」
なるほど、だから見たことがあったのか。
ゴールドとして活動している時、しつこく絡んでくる奴がいたが、確かそいつが全世界ランキング2位の奴だった気がする。
……ん? ということは、本当の全世界ランキング2位だった奴が、俺のゴールドアカウントを乗っ取ったってことなのか?
「私はゴールドギルドを襲ったユーザーを探しています。この辺りで怪しい者を見ませんでしたか?」
「いいや、見てないな」
「……即答、なのですね」
「こっちはポイント稼ぎで忙しくてね、他のユーザーのことなんか見ていないんだよ」
それに、ゴールドギルドを襲ったユーザーってのは俺なわけだしな。
「そうですか。……そちらの方々はどうですか?」
「あぁん? 俺たちか? ……見てねぇなぁ」
「……それは本当ですか? あなた方は、ボーンヘッドギルドですよね?」
「そうだが、だったら何なんだぁ?」
「PKギルド……あなた方が私たちを狙ったのではありませんか?」
「おいおい、なんの証拠もなく俺たちを疑うってのか?」
どうやらこのユーザー、相当に気性が荒いらしい。
まあ、ボーンヘッドギルドを一度は壊滅させた俺が言えることではないけどな。
「誰が私たちを襲ったユーザーかわからない以上、怪しき者は全て倒させていただきます」
「おぉおぉ、怖いねぇ。だがなあ、マジで俺たちじゃないぜ?」
「……その証拠はあるのですか?」
「証拠もないのに襲おうとしている奴が、俺たちに証拠を求めるってのか?」
「くっ!」
デスハンドも言うじゃないか。
フェゴールが本気になれば、デスハンドも一瞬で倒されるだろうに。
「だがまあ、証拠を見せろって言うなら見せてやろうじゃないか」
「あ、あるのですか?」
「当然だろう。今から近寄るが、構わないだろう?」
ニヤリと笑いながらそう口にしたデスハンドに対して、フェゴールは表情を顰めながら一つ頷く。
一応武器から手を離してはいるが、こいつ……絶対に何かやるつもりだろう。
「それじゃあ見せるぜ? こいつが――俺たちの答えだ!」
「貴様!?」
お互いが残り一歩の距離まで近づいたところで、デスハンドが一気に前に出た。
歯噛みしながら離れようとしたフェゴールだったが、それよりも早くデスハンドが彼女に触れる。
武器を持っていないし、ただ触れるだけではダメージを与えることはできないはず。
ということは、ダメージよりも面倒な攻撃を仕掛けたんだろうな。
「くらいな――デスグラビティ」
「は、離れなさい!」
「おっと!」
「くっ! こ、これは!?」
何かをされたということを理解しただろうフェゴールが即座に反撃へ転じたものの、その時にはデスハンドも大きく飛び退いて間合いの外へ逃れていた。
デスハンドは確かデスグラビティと口にしていたが、この魔法は確か……。
「なるほど、俺たちにぴったりのデバフ魔法じゃないか」
「本当はてめぇ用に獲得した魔法なんだがな」
「う、動きが、重い!? まさか、敏捷を下げるデバフですか!!」
対象者の敏捷の三分の一を減少させるこの魔法は、発動条件が触れなければならないという厳しいものだが、その分の効果は他のデバフ魔法に比べて大きいものになっている。
他のものは固定の数値しか減少できず、強力なものでも最大で50とかしか減少しない。
相手が弱ければそちらの方が全然いいのだが、ランカーが相手であればデスグラビティの方が圧倒的に効果は高い。
こうなれば全世界ランキング2位のアカウントだろうとも存分には戦えないだろう。
しかもそれが自分のアカウントではなく、まだ慣れていないアカウントであればなおさらだ。
「さーて、狩りの時間だ!」
「くっ! やはりあなた方が私たちを襲ったのですね!」
「あー、少し違うな。こいつらは関係ない。ゴールドギルドを襲ったのは、俺だけだ」
「……あ、あなたですって?」
そりゃあ驚くだろうな。たった一人でゴールドギルドを敵に回そうだなんて、普通は考えないんだから。
だが、俺には明確な敵意がある。
「言っておくが、俺はてめぇとゴールドの会話も耳にしているからな?」
「会話って……ま、まさか!」
「そのまさかだよ! こちとら乗っ取りのせいで苛立ちマックスなんだよ! 謝罪は受け付けない、俺の知識と技術の全てを駆使して、てめぇらを叩き潰してやるからな!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「待つわけがないだろうが!」
俺はフェゴールの言葉に耳を貸すことなく、一直線に飛び掛かった。
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