53.驚愕と諦め
「――はあっ!? ゴ、ゴールドギルドに喧嘩を売るだと!!」
周りに他のギルドがいないことを確認した俺がデスハンドにそう伝えると、驚きの声をあげた。
それはそうだろう。
相手はレベル400越えであり、全世界ランキング1位に君臨するユーザーだ。……本当は俺だけどな。
デスハンドがレベル60だということを考えると、俺たちが束になったところで敵わない相手なのだ。
「真正面から喧嘩を売るつもりはない。ギルメンをこっそりと削り、ランキング1000位以下にするだけだ」
「それが喧嘩を売るって言ってんだよ! てめぇ、俺らにワンアースから消えろとでも言いたいのか?」
「んなわけないだろう。これはあくまでもイベントだ。ギルド同士がぶつかり合うのも普通のことだろう。俺とお前たちがぶつかったみたいにな」
俺がそう口にすると、デスハンドは何も言えなくなってしまった。
「俺は個人的にゴールドに恨みを持っている」
「てめぇみたいな新人ユーザーがか?」
「今は新人ユーザーだが、本当はベテランだったんだぜ?」
「……なるほど。てめぇのそれはセカンドキャラってことか」
ガシガシと頭を掻き始めたデスハンドはしばらく腕組みをして考え込んでいたが、そこまで時間は掛からなかった。
「……ったく、仕方ねぇなぁ」
「い、いいんですか、ギルマス?」
「さっきも言ったが、俺たちに選択権はねぇよ。それに、お前……ゴールドについて、何か知っていやがるな?」
「何かって……お前、何か知っているのか?」
デスハンドの発言を受けて、俺は僅かに殺気が漏れてしまう。
「おいおい、勘違いするんじゃねぇぞ? 俺はゴールドに頼みごとをされたことがあるんだよ。まあ、断ったがな」
「頼みごとだと?」
俺はボーンヘッドギルドと関わったことなんて一度もない。ということは、乗っ取り野郎がコンタクトを取ったということだ。
しかし、こんなPKギルドになんの頼みごとをしようとしていたのだろうか。
「あぁ。新人ユーザーの中から使えそうな奴を紹介しろってな」
「……どういうことだ?」
「大方、ギルドに勧誘するつもりだったんじゃねぇか? それも俺たちが新人ユーザーを狙ってPKしているとわかってて頼んでいる感じだったからな」
「それをどうして断ったんだ?」
「んなもん決まってるだろうが。あの野郎の態度が気に食わなかったんだよ! あの上から目線の態度、マジでムカついたぜ!」
恨みの大小はあるだろうが、どうやらこいつもゴールドに恨みを持っているみたいだな。
しかし、その頼みは断ったんだよな? なのにどうしてここまで恨んでいるんだ?
「……まさか、その場でPKでもされたのか?」
「察しがいいじゃねぇか。それも俺だけじゃねぇ、その場にいた幹部たち全員がやられちまったんだよ!」
「あぁー、だから俺がPKした時はあまりアイテムがなかったんだな」
「うるせぇな! 同じことをしたてめぇがそれを言うんじゃねぇよ!」
冗談はさておき、そういうことならある程度こいつらに無理をお願いすることもできそうだな。
最初こそ後ろで見張りながら特攻隊にでもして突っ込ませようとしていたが、恨みがあるなら逃げることは少ないだろう。
多少なり連携を取ることもできそうだし、デスハンドは撹乱にもってこいのスキルを持っているしな。
「すでに一回、ゴールドギルドとは接触している。まあ、透明化スキルを使ったからバレてはいないけどな」
「それも元々は俺の武器なんだけどな!」
「そこは知らん。すでに何人かは離脱させていて、ゴールドはもう怒り心頭だ」
「何してくれてんだよ!」
「まあ待て。そのおかげでゴールドギルドは俺を探し出そうと多くのギルメンを周囲に走らせているはずだ。俺たちはそいつらを叩く」
あのゴールドを見た感じだと、自分から動くことはしないはず。
ギルメンもあの場にいただけじゃないだろうし、そいつらを集めて俺の捜索に当たらせているはずだ。
中にはランカーもいるだろうが、そこは俺が相手をしてやるさ。
「協力はしてやる。だが、俺たちの目的も忘れてもらっちゃ困るぜ?」
「1万位以内に入ることだろ? 余裕を持ってあと5万ポイントくらい稼げれば問題ないんじゃないか?」
「……てめぇ、簡単に言うじゃねぇか」
「まあ簡単だからな。さっきの場所に深緑の騎士がいただろう? あれはソロならってことで狩っていたモンスターなんだが、一匹750ポイント稼げるモンスターがいる狩り場を知っているんだよ」
「……マジか?」
目の色が変わったデスハンドを見て、俺はその場でいけると判断した。
「ソロだと面倒なモンスターだが、近接二人以上なら余裕で狩れるモンスターだからな。お前たちに譲ってやるよ」
「……いいだろう。提案を受けてやるよ! てめぇらもいいな!」
「「「「おうっ!」」」」
それから俺たちはまず、ここから近いモンスターの狩り場へ移動することにしたのだが――途中でゴールドギルドのギルメンと遭遇してしまった。
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