49.怒れるゴールドと離れるギルメン
「――誰だ! 俺様の邪魔をした奴は!!」
大剣を振り回しながら怒り狂うゴールドに対して、全世界ランキング2位のアカウント――フェゴールを与えられた楓はギルドメンバーに指示を飛ばしていた。
「今の攻撃はモンスターではありません! おそらくは身を隠すスキルを持ったユーザーです! すぐに周囲を索敵して見つけだすのです!」
しかし、ギルドメンバーの動きは緩慢であり、その姿を見たことでさらにゴールドの怒りは募っていく。
「貴様ら! さっさと動かないか! ゴールドギルドの名前に泥を塗る気か!」
「ゴールド様! 落ち着いてください!」
「貴様もだぞ! サブマスターのくせに何をやっている!」
「くっ! ……申し訳、ありません」
唯一機敏な動きを見せていたフェゴールに対しても怒鳴り散らすゴールドを目の当たりにしたギルドメンバーたちは、緩慢だった動きすらも止めてお互いに顔を見合わせ始めた。
「――なあ、どう思う?」
「――俺は抜けるかなー」
「――私も無理だわ」
「――だよなぁ。俺もダメだわ」
ゴールドギルドを抜けると言っているような言葉があちらこちらから聞こえてくると、怒りが頂点に達したゴールドがついに切っ先をギルドメンバーへ向けてしまった。
「貴様ら! 今すぐ首を刎ねてやる!」
「ダメです、ゴールド様! それだけは絶対にいけません!」
「黙れ! なんなら貴様から刎ねてやるぞ! どうして俺様の指示通りに動けない! 動いていれば今頃はあのモンスターを奪われることもなく、邪魔したユーザーを捕まえられていたはずだ!」
「だったら自分で動けってんだよ」
「誰だ! 文句を言った奴は出てきやがれ!」
再び怒鳴り声をあげたゴールドだったが、当然ながら誰も前に出て来ることはなく、むしろこの場にいるほとんどのギルドメンバーが離れていく。
「貴様ら! どこに行くつもりだ!」
「イベントから離脱するんだよ!」
「こんなイベント、やってられるか!」
「前のギルドに戻れるかしら?」
「お前もか? 俺も抜けてきたからなー。厳しいかもしれないなー」
「待て! まずは襲ってきた奴を見つけ出すのが先だろうが!」
ここまで来ると、誰もゴールドの言葉など耳に入ってはいなかった。
一人、また一人と専用フィールドからログアウトしていき、イベントからも退去してしまう。
ゴールドギルドの参加メンバーは最初こそ一〇〇人を超えていたのだが、死亡したユーザーも含めると今となっては七〇人にまで減少していた。
これでもギルドとしては多い方なのだが、それをゴールドが納得するかといえば、そんなわけがなかった。
「ザコ共が! 俺様に恥をかかせやがって! イベントが終わったらただじゃおかないからな! おい、楓!」
「ゴ、ゴールド様。ゲーム内ではリアルの名前は控えていただかないと――」
「黙れ! 貴様まで俺様に口答えするのか!」
「……申し訳ありません」
「ギルドを抜けた奴らをリストにしておけ! 絶対に許すわけにはいかないからな! いいか!」
「……かしこまりました」
グッと奥歯を噛みしめながら返事をしたフェゴールだが、その心の内は怒りを抑えつけようと必死だった。
(どうして私はこんな奴の下についたのかしら。……いいえ、派遣されたのだから仕方がないのだけれど、ワンアースに関われると思っていた昔の自分を叱ってやりたいわ)
ワンアースの虜になりプライベートで楽しんでいた楓は、派遣会社からワンアースと関われる仕事があると聞かされた途端に飛びついてしまった。
これでもっとワンアースを楽しめると思っていたのだが、実際はその真逆になってしまっている。
こんなことならプライベートと仕事は完全に分けておくべきだったと反省し、そしてどうにかして百弥の呪縛から解放される方法はないかと考える日々が続いていた。
(……そういえば、どうしてあのユーザーは私たちを狙ったのかしら? わざわざ注目度の高いゴールドギルドを狙う理由は何? 自分も注目を浴びたかったから? いいえ、もしもそうなら姿を隠している理由がわからない。ならば、どうして?)
「他のギルメンを呼び寄せろ! さっさとレイドボスを見つけて1位の座に躍り出るぞ!」
「わ、わかりました!」
フェゴールの思考はゴールドの怒声で吹き飛ばされると、すぐに今の現場を見ていなかった別のギルドメンバーに連絡を入れる。
(……私の助けに、なってくれるのかしら?)
それでもフェゴールの思考はすぐに姿の見えない謎のユーザーに向けられるのだった。
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