48.強奪

 これで勝負あり――そう思っただろうが、アースザウルスはまだ倒れてはいなかった。


『…………グルアアアアァァアアァァッ!!』

「な、なんですって!?」


 ドバドバと傷口から血を流しながらも、アースザウルスは体を捻り尻尾で地面を抉りながら周囲のユーザーを吹き飛ばしていく。

 その中には風穴を開けたユーザーも含まれていたが、そいつは直撃を避けて大きく飛び退いている。

 しかし、他のユーザーは完全に一掃されており、中にはHPを全損して消えていく者も多かった。


「残りHPは僅かです! ゴールド様、お願いします!」

「ふん! この程度を倒せないとは、ザコばかりだな! いいだろう、俺様が最後に出てやる!」


 何が最後に出てやるだ。最後にしか出てこないなんて、手柄を横取りしているようなものじゃないか。

 とはいえ、俺がそんなことをさせるわけがないだろう。


「透明化発動」


 俺は透明化スキルを発動させると素早く移動を開始してアースザウルスの近くへ移動する。

 残りHPは確かに僅かだが、先ほどの戦闘を見た感じだとアースザウルスの体力は俺の予想よりも高いはず。

 それは風穴を開けられても動き続けている今の状況が物語っている。

 俺が操るゴールドであればまだしも、乗っ取り野郎が操るゴールドなら一撃で倒すことは不可能なはずだ。


「ザコはどいていろ!」

「……くそっ」

「……何なんだよ、こいつ」

「……ゴールドって、こんなに性格が悪かったのね」


 ものすごい言われようだな、乗っ取り野郎め。

 ゴールドが大剣を手にしてゆっくりとアースザウルスへ近づいていく。

 俺も隼の短剣と黒閃刀を握りしめながらタイミングを計る。


(フィー、エアヴェールを頼む)

(はいなのー)


 透明化をしている間は霊獣と念話で会話をすることができる。

 俺はフィーにバフスキルを使ってもらい敏捷をさらに強化して準備完了だ。

 ゴールドは間違いなく弱点を狙ってくるだろう。

 だが、アースザウルスもただ黙って弱点への攻撃を見ているつもりはないはずだ。

 そのことに気づいているのか否かはわからないが、もしも気づいていないのだとしたら……最初の攻撃のタイミングで俺がアースザウルスのポイントをかっさらってやる!


「いくぞ!」


 ……よし、気づいていないな!

 暴れ狂うアースザウルスの動きを読みながら近づいていく姿は、まあまあやり込んでいるユーザーなのだと納得はできる。

 しかし、大振りの動きにだけ反応しているようで、細かな動きには目もくれていないところを見ると、やはり実力はそこまで高くはないようだ。

 実力だけを見れば、風穴を開けたユーザーの方が遥かに高いだろう。

 小さなダメージを気にしない動きで近づいていったゴールドは、両手で握る大剣を一気に振り下ろした。


「はああああああああっ!!」

『グルオオオオアアアアァァアアァァッ!!』


 弱点である尻尾の付け根目掛けて振り下ろされた大剣だったが、その軌道はあまりにも素直過ぎる。

 案の定、アースザウルスにもバレてしまい弱点に命中する前にずらされて鱗の堅い部分に大剣はぶつかった。


「うおぉっ!?」

「ゴールド様!」

『ガルアアアアァァアアァァッ!!』


 衝撃で戦斧を使っていたユーザーと同じように両腕が跳ね上がったゴールド。

 そこへ横薙がれたアースザウルスの尻尾。

 ゴールドを助けようと駆け出した風穴を開けたユーザー。

 ここしかないと飛び出した俺は、二振りの武器でゴールドが狙おうとしていた弱点目掛けて連撃を見舞う。

 瞬間的に六連撃を見舞った俺は、続けざまに飛び上がると顎の下にある弱点を目掛けてもさらなる連撃をぶつけていく。

 合計で十連撃を見舞ったことで、残り僅かとなっていたアースザウルスのHPは完全に消滅していた。


「大丈夫ですか、ゴールド様!」

「……あ、あぁ……当り前だろうが! それに見てみろ!」

「大丈夫であれば……えっ? ど、どうして?」


 風穴を開けたユーザーが驚いているのには理由がある。

 こいつはゴールドの攻撃が弱点に命中しなかったことをはっきりと見ていたはずだ。

 それにもかかわらず、目の前ではアースザウルスの死亡エフェクトが起きている。

 こいつからすると、何が起きているのかさっぱりわからないという状況だろうな。


「ポ、ポイントは!?」

「何をそんなに焦っている? 俺様が倒したんだから気にすることはないだろう!」

「そ、それはそうですが……」


 なるほどな。どうやらこいつはゴールドに逆らえないらしい。

 しかし、隠れてすぐにポイントを確認されたらバレる可能性もあるし、ここは一つ嫌がらせだけをしてさっさと離れることにしようか。

 というわけで、俺は死にかけているゴールドギルドのギルメンをこっそりと攻撃していく。


「ぐあっ!」

「がはっ!」

「な、何が起きて――おあっ!?」

「どうした! モンスターか!」

「す、姿は見えません!」


 ゴールドもあのユーザーも混乱しているか。

 だが、透明化スキルも制限時間になってしまうし、そろそろ潮時だな。

 俺は全力でその場を離脱し、ゴールドギルドから距離を取ったのだった。

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