47.発見

 二日目も夕方になり、俺はそろそろログアウトして腹を満たそうかと考えていた。

 今いる場所は山の中で、ここからゴールドギルドを探し出すのには時間が掛かると考えていたからだ。

 しかし、ログアウトする時になり遠くの方から激しい戦闘の音が聞こえてきた。


「……まさか、この先か!」


 俺は走る速度を上げて山の中を突き進むと、戦闘の音が段々と近づいてくる。

 はっきりとはしないがユーザーの怒鳴り声も聞こえてくると、俺は速度を落として物陰に隠れながら慎重に進んでいく。


「――だから力押しだと言っているだろう! そんなこともできないのか!」

「――こ、こいつに力押しは悪手だと言っているだろうが!」

「――俺様の言うことが聞けないっていうのか!」

「――くそっ! どうなっても知らないからな!」


 何やら言い争っているようだが、いったい何があったというのだろうか。

 そっと物陰から顔を出して様子を窺う。


「……はは……ようやく、見つけたぞ――ゴールド!」


 俺は今、どんな表情をしているのだろうか。

 怒りに染まった顔なのか、それとも宿敵を見つけることができてにやけているのだろうか。

 まあ、どちらでも構わない。俺にとって大事なことは、ゴールドを叩き潰す機会が巡ってきたということだけだ。


「モンスターは……アースザウルス? なるほど、確かにじゃあ倒せない相手だな」


 ゴールドの動画を見ていた奴の大半なら、体力の高いモンスターであっても力押しだけで倒していたと思うだろう。

 だが、当然ながらそうではない。しっかりと弱点を狙って大剣を振り向いていた。

 どうやら乗っ取り野郎は俺がやっていたことに気づくことのできなかった素人、もしくは実力の足りないユーザーのようだ。


「モンスターを横取りしてやりたいが……今の俺にアースザウルスを倒せるか?」


 透明化を使いアースザウルスの弱点を狙うことは可能だろう。しかし、たった数回の攻撃で倒せるとは思えない相手だ。

 ゴールドギルドがある程度ダメージを与えてくれてから横取りを狙うか、もしくは横取りなんてことは考えずにギルメンPKして邪魔をする方が優先か?

 俺はしばし思案した後、答えを出した。


「……よし、横取りを狙うか」


 ギルメンを減らしたところで今のゴールドギルドなら残ったメンバーで巻き返してくるだろう。

 透明化を使ったとしても制限時間は5分しかなく、時間内で全てのギルメンを倒すことの方が不可能だ。

 それに、俺が手を下さなくても今のゴールドを見ていれば、こいつらは勝手に自滅してくれるだろう。

 それほどに今のゴールドの姿は情けなく、ギルメンをまとめているとは言い難かった。


「おっ! そろそろあいつは倒されるか」


 ゴールドの指示に従い無理やり突っ込んでいったユーザーが戦斧を振り下ろした。


 ――ガキンッ!


 甲高い音が鳴り響くだけで、アースザウルスにダメージがあったようには見えなかった。


「ちくしょう! だから言ったじゃねぇか!」

『グルアアアアァァッ!』

「ぐああぁっ!?」


 戦斧が弾かれて両腕が跳ね上がり、無防備となった脇腹へ恐竜に似たアースザウルスの尻尾が振り抜かれる。

 大きくくの字に曲がったユーザーが吹き飛ばされて岩壁にぶつかると、大きなひびを作りそのまま消えてしまった。

 ……一撃で、HPが全損したのだ。


「くそっ! あの野郎、ランカーだって言うから連れて来たのに、ただのザコじゃねぇか!」

「ゴールド様、ここは下がった方が良いと思います」

「ふざけるな! 俺様に下がれって言いたいのか? 俺様はゴールドだぞ!」


 いや、お前はゴールドじゃねぇだろうが。というか、負けたくなかったら自分で戦えってんだ。


「まだギルメンは大勢います。ここは彼らに任せて下がるべきだと言っているのです」

「俺様に指図してんじゃねえ! お前も行け、俺様のアカウントを使っているなら倒せるだろうが!」


 ……ん? 俺様の、アカウントだと?


「……かしこまりました」


 ……あのアカウント、どこかで見たことがあるような。……気のせいだったか?

 謎のユーザーがゴールドから離れてアースザウルスの方へ歩き出すと、巨大な槍を片手に構えて段々と速度を上げていく。


「……あのユーザー、強いぞ!」


 最高速度に到達したユーザーが穂先を持ち上げてアースザウルスに向けると――一筋の光と化した。


「せぃやああああぁぁっ!」


 ――ドゴオオオオォォン!


 穂先がアースザウルスを捉えると、一瞬の停滞の後に鱗が大きく弾け飛ぶ。そして――大きな風穴を開けて後方へ着地した。

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