50.まさかの遭遇

 ――ゴールドギルドから距離を取った俺は、すぐに追手が来ると予想していた。

 しかし、予想は外れてなかなか追い掛けてくるギルメンは現れず、気づけば3時間が経過してもう一度透明化スキルが使用できるようになっていた。


「ゴールドギルド、やっぱり自滅したか?」


 あのゴールドを見た限り、こちらから手を出さなくても自滅するとは思っていたが、もしかするとそのせいで俺の追跡ができなかったのかもしれないな。

 ……というか、こんなにもすぐに自滅してくれるとはな。これなら今からでもゴールドを、乗っ取り野郎と倒せるんじゃないだろうか?

 そんなことを考えたものの、俺はすぐに首を横に振って考え直す。

 あまりにもレベル差があり過ぎるし、ゴールドにはアースザウルスに風穴を開けたあのユーザーがいる。

 見た感じ、あいつだけは何があってもゴールドを裏切ることはしないような気がした。

 ならばゴールドと一緒にあいつも倒さなければならないことを考えると、今の俺では成す術がない。

 せめてゴールドだけならなんとか……いや、焦るな。焦ると上手くいくものもいかなくなる気がする。

 落ち着いて状況を見極め、倒せると判断した時に一気に狩る。

 地道にレベル上げをして確実に倒すこともできるが、それでは時間が掛かり過ぎるのだ。


「どうしたのにゃ、ご主人様?」

「まだ隠れてるのー?」

「……追手も来ないし、そろそろいいか」


 さすがに暇になったのか、ニャーチとフィーが抗議の声をあげた。

 3時間も経過したのだから、ここからは追手と遭遇したとしてもここを狩り場にしているのだと言ってしまえば済むだけの話だ。

 それでも言いがかりをつけてくるようであれば……まあ、その時は真正面から戦ってやるか。

 レベルではまだまだ相手の方が上だろうが、技術で負けるつもりはない。

 それに俺には暗殺剣と暗殺者の一撃のスキルがある。

 ユーザーが相手でも弱点は存在するので、そこへ攻撃を滑り込ませることができれば相手が格上でもランカーとかでなければ負けるつもりはない。

 それだけの時間を、俺はワンアースに掛けてきたのだから。


「そういえば、アースザウルスのポイントってどれくらいだったんだ?」


 通りに出て歩きながらDRギルドのポイントを確認する。


「……マジか? 1000ポイント?」


 どうやらアースザウルスが、レイドボスを除けば一番ポイントの高いモンスターだったようだ。

 まあ、あれだけの強さなら1000ポイントも頷けるか。俺が手を出すまでの間にゴールドギルドは二桁に迫る数のギルメンを失ったんだからな。

 そう考えると、こいつを1000匹倒すのはさすがに現実的ではないか。

 マジでレイドボスを倒したギルドが1位になりそうだな。


「……目立たないためには、倒さない方がいいのかも?」

「嫌なのー! もっと戦いたいのー!」

「ご主人様は1位になりたくないのにゃ?」

「あー……いや、1位にはなりたいけど、目立ちたくはないかな」


 ここで目立ってしまうと、絶対にゴールドギルドからちょっかいを出されそうな気がする。

 いや、ゴールドギルドだけではなく他の上位ギルドからも声を掛けられるかもしれない。

 俺がレヴォを作ったのは乗っ取り野郎をぶっ潰すためであって、こいつで一番を目指すためではないのだ。

 だが……よーく考えてみると、ぶっ潰したところでゴールドのアカウントが俺に戻ってくるわけじゃないんだよな。

 それならいっそのこと、レヴォでもう一度一番を目指してもいいんじゃないだろうか。

 その足掛かりとして今回のギルド対抗イベントで1位を獲得してゴールドギルドを叩き潰すのもありかもしれない。


「……そうするか。それに、もしもゴールドのアカウントが戻ってきたとしても、それはもう乗っ取り野郎がいじくり回したあとのゴールドだもんな」


 俺は俺のゴールドが戻ってくるのでなければ、もう使うつもりはない。

 いいや、すでに乗っ取り野郎のせいでゴールドの評判は急降下だろう。

 こうなってしまっては、俺のゴールドが戻ってきたとしても、それを周りが認知するかどうかは俺にはわからない。


「……よーし! ニャーチ、フィー! 俺はレイドボスを狙ってやろうと思うよ!」

「それでこそご主人様なのにゃ!」

「やったなのー! フィーも頑張るのー!」


 できるかどうかはわからない。

 アースザウルスですら俺たちだけで倒せるかどうか怪しいのだから。

 だが、やらずして諦めるなんてこともしたくはない。

 それは俺がワンアースに人生の全てを懸ける覚悟を持っていたからかもしれない。


「それじゃあ今までセーブしていた分、一気に数を稼ぐとしますか!」

「頑張るのにゃ! ご主人様、フィー!」

「はいなのー! 頑張るのー!」


 こうして俺たちDRギルドの快進撃が始まったのだった。

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