30.霊獣

 ――ポンッ!


 目の前に霊獣の卵が浮かび上がると、卵から光が放たれた。

 伝承級が確定しているからか、最初から派手な演出が期待を膨らませてくれる。

 欲をいえば神話級や伝説級の霊獣が欲しいのだが、伝承級であっても十分な戦力になってくれるし、霊獣に関していえばレベルを上げることで進化させるが可能だ。

 そして、進化することで等級を上げることができるので、伝承級だったとしても霊獣と一緒に成長することが可能となる。

 それはそれで楽しいので、俺としてはどちらでも構わなかった。


「さーて、生まれろ! 俺の霊獣!」


 俺の言葉に呼応したのか、直後に今までで一番強烈な光が放たれると――強烈な突風が頬を叩いた。


「うおっ!」

「な、なんなのにゃ!」


 ゴールド時代にも霊獣の卵を何度か孵化させたことがある。

 その時は孵化と同時に霊獣が持つ属性の力が周囲へ放出されていた。

 今回の場合で言えば、それは風だ。

 生まれた霊獣は風に特化した力を持つだろうと予想し、俺は突風吹き荒れる中で目を開いた。


「……妖精か?」


 風の中心には手のひらサイズのかわいらしい、翠髪をたなびかせる女の子の精霊がクルクルと回りながら踊っていた。


「ヤッホー! 私は中級の風精霊だよー!」

「かわいい精霊なのにゃ!」


 ふむ、中級ということは、伝承級か?


「ステータス」


 俺はそのまま中級の風精霊のステータスを確認した。


■名前:なし ■レベル1

■霊獣:中級の風精霊(伝承級)

■HP100/100

■MP150/150

■筋力10 ■敏捷30

■知能20 ■体力15

■精神力25

■ステータスポイント10

■スキルポイント10

■アクティブスキル

・エアバレット 消費魔力5(風の弾丸を飛ばして攻撃する)

・エアスラッシュ 消費魔力10(風の刃を飛ばして攻撃する)

・エアヴェール 消費魔力10(対象の敏捷を5%上昇させる。効果時間5分)

■パッシブスキル

・敏捷上昇(5%)


 ……ふむ、やっぱり伝承級か。まあ、中級という時点でわかっていたけどな。

 だが、風精霊なのは俺にとって好都合だ。

 敏捷を中心に伸ばしている俺にとって、敏捷を上昇させるバフスキルを持っている風精霊はありがたい。


「名前を決めてー! 早く、早くー!」


 霊獣にも色々と性格があるが、今回の風精霊は元気いっぱいの女の子のようだ。

 それにしても、名前かぁ。

 ゴールドの時も名前決めが一番苦労したんだよなぁ。

 性格があるということは、感情があるということ。気に入らない名前を付けられようものなら、その後のやり取りに棘を感じることもしばしばあった。

 ……元気いっぱいのかわいらしい精霊かぁ。


「…………フィー」

「……私の名前は、フィーなの?」

「ど、どうだ?」

「うーん……うーん…………うん! 気に入った! 私の名前はフィーなのー!」


 ……とりあえず、納得してもらえたみたいだ。

 嬉しそうにクルクル回りながら踊っていたフィーは、最終的に俺の頭の上にぽすんと座った。


「私、役に立つの! 頑張るのー!」

「……お、おぉーっ! 頑張ろー!」

「なのー!」


 ……えっ? フィーの定位置は頭の上になっちまうのか?


「にゃー……かわいいにゃー」

「えへへー! ありがとなのー!」


 ……まあ、ニャーチとフィーが満足しているなら、これでもいいか。

 というわけで、中級の風精霊の名前はフィーに決まり、ゴブリンの巣ダンジョンでのレベリングが本格的にスタートしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る