第二章:ゴールドギルド

31.乗っ取り野郎

 ――カチカチカチカチ。


 黒革張りの高級な椅子に腰掛けた金髪の男性が、一面白で統一された一室でパソコンを見つめながら作業をしている。

 時折ニヤリと笑みを浮かべているが、それが妙に不気味だった。


 ――コンコン。


 男性がいる部屋のドアがノックされると、机の端に置いてあったリモコンを操作してカギを開けた。


「失礼いたします、百弥びゃくや様」

「首尾はどうだ?」


 入ってきたボブカットの女性に対して、百弥と呼ばれた男性が開口一番そう口にした。


「問題ございません。ターゲット、隼瀬光輝が各所に問い合わせたメールを全てこちら側で抜き取り、偽の返信にて対応。その後は追加の問い合わせを確認しておりません」

「はっ! まったく、滑稽だな! 俺様の上に立っていた奴が、たった一度の乗っ取りで全てを失ってしまうんだから!」


 背もたれに全体重を預けながらそう口にした百弥は、視線を女性からパソコンへと戻す。

 そこには百弥が操るゴールドの動画が映し出されており、編集作業を終えてこれから配信を行うところだった。


「この動画が配信されれば、一気にユーザーが俺様のところに集まってくる。そうすれば、俺様がナンバーワンだ!」

「そうなることでしょう」

「くくくっ! 天童寺てんどうじ財閥の跡取り息子に席を譲らなかった罰だ。しっかり味わってくれよ、隼瀬光輝ぃぃぃぃっ!」


 天童寺百弥は言葉通り、天童寺財閥の跡取り息子だ。

 IT企業として急成長を果たし、ワンアース運営とも手を取り合って仕事をしている。

 会社同士でも繋がっている天童寺財閥だが、まさか跡取り息子がワンアースで不正を働いているとは夢にも思っていないだろう。


「俺様のアカウントはお前にやる。しっかりとサポートするんだぞ?」

「お任せください、百弥様」


 元々天童寺は全世界ランキングで2位のユーザーだった。

 しかし、どれだけ頑張ろうとも、お金を掛けて等級の高い装備を手に入れようとも、ゴールドを追い抜くことができなかった。

 それが天童寺には我慢ならなかったのだ。

 自分が一番だと、自分の上には誰ひとりとしていてはならないと、天童寺はそんなことを常日頃考えて生きてきた。

 どれだけ努力をしても、お金を掛けても引きずり下ろせないのなら――その存在自体を奪ってしまえばいいと天童寺は考えた。


「しかし、あのハッカーはがめつかったなぁ」

「ですが、全世界でも有数のハッカーだと伺っております。そのような相手への報酬としては妥当な額かと」

「……ちっ! まあいい。そのおかげでゴールドのアカウントが手に入り、これからワンアースで大金を稼ぐことができるんだからな!」


 大財閥の跡取り息子ということもあり、百弥が自由に使えるお金は結構な額に達している。

 しかし、それは親から与えられたお金であり、世間一般から見ればお小遣いと呼ばれるものだ。

 なんでも一番にならなければ我慢ならない百弥からすると、ただ与えられただけのものでは満足することができなかった。


「親父は大金だと口酸っぱく言ってくるが、まったく足りないんだよ! 俺は俺のやり方で金を稼いでやる! その足掛かりがゴールドなんだ!」

「仰る通りです、百弥様」

「それじゃあ、最初の一手を繰り出すとするかぁ」


 そう口にしながら、百弥は編集を終えていた動画の配信を開始した。


『ふははははっ! 私だ、ゴールドだ! 久しぶりの配信だが、今日は大発表がある! 単刀直入に伝えよう! 私は――ギルドを立ち上げようと思う! 全世界ランキング、ダンジョン攻略数ランキング、アリーナランキングで1位を獲得したが、ついにギルドランキングでも1位を狙うつもりだ! この動画を配信してから3時間だけDMを開放するので、腕に自信がある者は連絡してくるがよい! それでは、さらばだ! ふははははっ!』


 天童寺が配信した動画はたったこれだけの内容だったが、反響は凄まじかった。

 最初の一時間で再生回数が5万回を超え、次の一時間でSNSに情報が拡散され、最後の一時間で天童寺に大量のDMが届いたのだ。


「さーて、ここからランカーを選び抜き、最強のゴールドギルドを作り出してやるぞ! 首藤しゅとうは奴にしっかりと言いつけておけよ!」

「かしこまりました」


 こうして、百弥のギルドランキング1位計画がスタートしたのだった。

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