29.決着

 ――結果から伝えると、完勝だった。それはもう、傷一つ受けることのない完勝。

 床には大量の宝箱が転がっており、俺は最後の一人に二振りの刀身を向けていた。


「ば、化け物め!」

「いいねぇ、化け物。そんな化け物に手を出したお前たちは愚か者ってところか?」


 最後に残っていたコープスは、あろうことか俺のことを化け物と言ってきやがった。

 まあ、嫌な気はしないな。ゴールドの時にも似たような言われ方をしてきたし。

 それを初めて二日目のアバターで言われるなら、それだけ実力を示すことができたったことだしな。


「お前からはもう有用なアイテムは手に入らないと思うが、最後に何か言い残すことはないか?」


 これだけ絡んできたのだから、最後の言葉くらいは聞いておいてやるか。


「……た、助けてく――」

「それはない」

「ぐはっ!?」


 最後の最後に命乞いって……この状況、わかっているのかねぇ?

 というわけで、あっさりと終わらせてしまった。

 その後、俺は大量に転がっている宝箱を回収してからギルドハウスをあとにした。


 ◆◇◆◇


 始まりの村にある競売所の前、俺はそこでアイテムの確認を行った。

 動画配信の収入は二〇日締めの月末にまとめて入ってくるのだが、競売所では競売時間が終われば窓口ですぐに受け取れる。

 そのゴールドを現金に換金するには三日程掛かるが、それでも月末を待つよりかは十分に早く手元に入ってくる。

 何か競売に出せそうなアイテムがないか確認していたのだが……。


「こいつら、まったくいいアイテムを持ってないな!」


 伝承級装備は一つもなく、あっても希少級装備だけ。

 デスハンドの装備が気になるところだが、装備しているものは獲得できないのでどうしようもない。

 となると、回復系のアイテムをセットにして競売にかけるのが妥当かな。


「上級ポーションが5個、中級ポーションが8個、下級ポーションが12個。始まりの村に拠点を置いていたギルドだからか、状態異常回復のアイテムはないなぁ」


 ……使えない奴らだ。

 とはいえ、無駄にアイテムを抱え込むとゴールドの時みたいになりかねないし、処分はすぐに行うべきだろう。

 というわけで、俺はいくつかをセットにして競売にかけた。

 売れれば手数料を引いた分のゴールドが手に入るし、売れなくても手元に戻ってくるんだから、損はないだろう。

 不満を強いて挙げれば、手数料が三割ってところくらいか。


「……鬼畜な運営め」


 まあ、その分をしっかりとワンアースに還元しているわけだから、文句は言えないか。


「装備類はマジでゴミだなぁ。希少級も少ないし、あとで潰して素材に変えないとだな」


 そんなことを考えながらアイテムを見ていくと、俺は大事なことを忘れていたことに気がついた。


「あっ! 伝承級ランダム霊獣の卵!」


 ボーンヘッドギルドに連れていかれたせいもあり、孵化できる状態だったのにすっかり忘れていた。

 今すぐにでも孵化させたいが、ここは人目が多すぎるな。


「……レベリングも兼ねて、ゴブリンの巣ダンジョンで孵化させるか」


 獲得経験値が1.2倍になるのも残り二日だ。

 どうせならお披露目と同時にそのまま霊獣のレベリングも行った方が早いからな。


「それじゃあ、ポーション類を競売にかけてっと……よし、終わり! それじゃあゴブリンの巣ダンジョンに向かうか!」


 こうして俺はゴブリンの巣ダンジョンへ向かうため始まりの村をあとにした。


 ◆◇◆◇


 到着して早々、結構な数のユーザーがゴブリンの巣ダンジョンに足を運んでいることに気がついた。

 動画から三階層までしかないことも把握されているので、腕試しの新人や中堅ユーザーが足を運んでいるのだろう。

 この中で霊獣を孵化させるのはどうかと少しだけ思ったが、ここまできて先延ばしにするのも面倒なので、ユーザーが少ないところまでとりあえず向かうことにした。

 マッピングはすでに済んでいるので、エコーでユーザーがいない袋小路を探していく。

 ようやく見つけた場所には宝箱も隠し部屋もなく、モンスターも早々に片付けてしまった。

 要は、安全な場所が出来上がったわけだ。


「よーし! それじゃあ伝承級ランダム霊獣の卵を孵化させるぞ!」

「楽しみだにゃ! ……で、でも、霊獣が生まれたら、僕は非表示になるのかにゃ?」

「ん? なんで? するわけないじゃん」


 唐突な質問に即答してしまったが、そういえば霊獣の中には会話を楽しめるものもいたんだっけか。

 だとしても、俺の中ではニャーチとの会話も含めてワンアースを楽しんでいるので、非表示するという選択肢は皆無に等しかった。


「ほ、本当かにゃ? 信じていいのかにゃ?」

「当たり前だろう。ニャーチはずっと表示する、これでいいか?」

「……あ、ありがとうだにゃ! 一生ついていくのにゃ!」


 いや、システム的にそういうものだろう。

 とは言えず、俺はニャーチの頭を撫でるだけにした。


「それじゃあ今度こそ、孵化させるぞ!」

「わかったのにゃ!」


 俺はインベントリから伝承級ランダム霊獣の卵を選択すると、そのまま孵化をタップした。

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