28.切り札
……ふむ、こいつはスキル名の通り、闇の世界に相手を連れていく的なスキルなのだろう。
一切の光がどこにもなく、暗闇がどこまでも続いているように見える。
もちろん、そうではないだろう。効果範囲はあるだろうし、このままずっとダークワールドが継続されるはずもない。
しかし、俺が透明化を使った時点でダークワールドを発動させたのだから、こいつの発動時間は透明化よりも長いと考えた方がいいだろう。
何せ黒閃刀は元々デスハンドの武器だったのだから、透明化のスキルについては熟知しているはずだからな。
『――どうだぁ、俺様のダークワールドは? これでてめぇは透明化していても何もできねぇぞ?』
……いや、返事なんてしないからな? 返事をしたら透明化が解けるからな?
『――……くくくく、透明化の特性をよーく理解しているじゃねぇか』
使うスキルなら当然だろう。こいつ、俺が初心者だと思っているんじゃないのか? ……いや、そうか。俺は今、新人ユーザーのレヴォだったわ。
『――だとしたら、発動時間もしっかりと把握しているんだろう? 言っておくが、ダークワールドの発動時間は透明化よりも長いぜぇ?』
だと思ったよ。
しかし、あっさりと情報を暴露してくれたものだ。ダークワールドを使って俺を倒し切る自信でもあるのだろうか。
とはいえ、こちらに透明化が解けるまでの戦況は平行線のままだろう。
俺があちらの居場所をわからないように、デスハンドも俺の居場所をわからないはず。
……結局のところ、俺の方がピンチってわけだ。
『――あと何分だあ? てめぇの命もあと少しじゃねぇかあ?』
答えるわけがないだろう。
うーん、やろうと思えばやれることは多くあるが、どっちにしても最大限透明化の時間を使い切りたいところだな。
残りは……2分か。
とりあえず、ダークワールドが5分以上はもつことが確定しているので、そのあとからだな。
すでにエコーは使っているが、どうやらエコーではダークワールドを打開できないことは把握済み。
一応、アナライズも使ってみたがまったく反応しなかった。
『――おいおい、いつまで黙っているつもりだあ?』
あと1分だよ。
とはいえ、これ以上時間を掛けるのも勿体ない。
俺は足音を立てずに一方向へ歩いてみたものの、気づけば壁に到着してしまう。危なく音を立てるところだったが、ギリギリセーフだ。
効果範囲はギルドハウスのエントランスを覆っているってことだろう。
まったく、面倒なスキルである。
……そろそろ時間だな。……3……2……1……――
『――ぶっ殺してやる!』
「ダークエッジ」
壁際に移動したのは、警戒するべき方向を少しでも減らしたい意図があった。
壁を背にした俺は前と左右、そして上目掛けて中級闇精霊の腕輪に備わっているスキル、ダークエッジを発動させた。
『――ぐあっ! て、てめえっ!!』
「おっ! 当たったみたいだな」
初めてダークエッジ使う状況が何も見えない状況って、どうなんだろうか。
どんな感じで魔法が発動するのか見たかったよ。
しかし、これがずっと続けられるわけではない。
ダークエッジの消費MPは30。俺のMPは最大で490。先ほど四発ぶっ放したので、残りMPは370。
MPがなくなる前に押し切れればいいが、一度ダメージを受けたデスハンドが同じミスを犯すことはしないだろう。
ただし、それは制限時間が迫っていなければの話だ。
『――絶対に、ぶっ殺す!』
どうやらダークワールドの制限時間も迫っているようだ。
ほとんど何もせずに5分近い時間を消費したのだから当然だが、俺が知る限りでも制限時間を伴うスキルの最長時間は10分だったはず。
ダークワールドの制限時間が10分だったとしたら、残りは3分くらいだろう。
それよりも短かい可能性もあるし、そうなればあとは切り合うのみだな。
「ダークエッジ!」
再びダークエッジを発動させて牽制しながら、俺はデスハンドの出方を待つことにした。
四方向へダークエッジを発動できるのもあと二回。
まだ解けないのか? まだか、まだなのか?
「ダークエッジ!」
ついにデスハンドは声すら出さなくなった。
こちらの隙を伺っているのか、それともダークエッジによって追い込まれているのか。
後者であれば嬉しいんだけどなぁ。
「ダークエッジ!」
ここで俺は最後のダークエッジを発動させると同時にウインドウを開いて装備を変更する。
さあ、残り時間はどうだ!
――ブオン。
「畜生があっ!」
「視界が、戻った!」
ダークワールドの効果が終了した瞬間、デスハンドは俺との距離を取るためか大きく飛び退いていた。
だが、こっちにはこの装備があるんだよなあ!
「瞬歩!」
「んなあっ!! こ、黒閃刀を持っているじゃねえか!?」
こちとら二刀流なんでね! 右手に黒閃刀、左手に隼の短剣なんだよ!
「暗殺剣――連撃!」
「ぐがっ! げべっ!!」
意表をついたことでデスハンドの動きは精彩を欠いている。
俺はその隙をついて弱点に二刀流の連撃を加えていく。
さらに暗殺剣の効果によってダメージが三倍になっている。
当然ながら、デスハンドのHPは一気に削り取られていく。
「くっ! ふ、ふざけんじゃねぇぞ!」
「逃げるつもりか、エコー!」
再び最初に使っていたスキルを発動しようとしたデスハンドの行動を先読みしてエコーを放ち、その居場所を把握する。
こいつ、全力で逃げてやがる!
「瞬歩!」
「く、来るな! 来るんじゃ――うげごぼがっ!?」
再び瞬歩を発動させて詰め寄ると、すれ違いざまに攻撃を加える。
地面に転がり息を切らせているデスハンドに、俺は黒閃刀の刀身を突きつけた。
「どうする?」
「……ふざけんな、ふざけんじゃねぇぞ! 俺様は負けねぇ、てめぇら! こいつを絶対に逃がすな――ぐはっ!?」
俺は黒閃刀を突き出すと、デスハンドの左胸を突き刺した。
HPが全損し、デスハンドはこれで終わりだ。
「……絶対に、逃がすんじゃねぇぞおおおおぉぉっ!!」
最後に絶叫を残し、デスハンドは宝箱に姿を変えてしまう。
そして、俺はくるりと向きを変えて壁際でどうしたらいいのかと困惑しているギルメンたちに声を掛けた。
「さあ、どうする? やるのか、やらないのか?」
「全員で掛かるぞ! やれええええぇぇっ!!」
声をあげたのはコープスだった。こいつ、懲りない奴だなぁ。
まあ、俺としては大量のアイテムを手に入れる大チャンス!
「いいぜ、全員を相手にしてやるよ!」
「が、頑張るのにゃ、ご主人様!」
……ニャーチ、お前はいったいどこに隠れていたんだ?
まあ、今はそんなことどうでもいいか。
俺はボーンヘッドギルドのギルドハウスにて、大乱闘を繰り広げることになるのだった。
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