24.動画チェック

 ◆◇◆◇


「――…………やべぇな、双剣の暗殺者」


 そんな感想が、ログアウトしてからも自然と口を突いて出てしまう。

 それだけ衝撃的な瞬間であり、奇跡的な一日だったと思えてならない。

 窓の外に目を向けるとすでに日が沈んでおり、月明かりが差し込んできている。


「……腹、減ったなぁ」


 現実に引き戻されながらも、俺はVRカプセルから出てすぐにパソコンの前に腰掛ける。

 昼に投降した動画のチェックと、新しい動画の編集を行わなければならない。

 これだけネタがあるのだから、今はアップできるだけアップするのが正解だろう。

 ……今月の配信で、なんとか来月の家賃や光熱費の支払い分だけは稼ぎたいものだ。


「まずは動画のチェックだな。レベリング動画は……約半日で5000回再生、まずまずだな」


 ゴブリンの集落を壊滅させる動画は結構ありふれている。

 新人ユーザーでそれをやっている動画は少ないが、それでもゼロではないのでこんなものだろう。


「次はPK集団返り討ち動画だけど、そういえばコープスの奴がなんか言ってたっけ。……まあ、どうでもいいか。再生回数は……ん?」


 ……あれ? ゲームのし過ぎで目が疲れてきているのか? 再生回数がおかしなことになっている気がするぞ?


「も、もう一回確認だ! ……いち、じゅう、ひゃく、せん……まん…………に、2万回再生?」


 …………な、なんでこんなに再生されているんだ? もしかして、今さらだけど顔出しがマズかったのか?

 でも相手はPKギルドの奴らだしなぁ。顔を出すことで他のユーザーに注意喚起できるわけで……よし、気にしないでおこう! むしろ、再生回数が多いことを喜んでおこう!


「あれ? ってことは、もう一本PK集団返り討ち動画を投稿できるわけだから、次の動画はもっと再生回数を稼げるんじゃないのか?」


 それに、今回はゴブリンの巣ダンジョンと隠し職業への転職動画も投稿する予定だ。

 返り討ち動画はたまたまだったけど、ダンジョンと隠し職業の動画はほぼ確定で再生回数を稼げるはず。

 これなら来月の支払いだけではなく、ある程度の生活費まで稼げるんじゃないだろうか。


「……た、助かったああああぁぁ。……いや、待てよ? 消費者金融から金も借りているし、そっちの返済も急がないといけないよな?」


 となると、やっぱりまだまだ稼がなければならない。お金も、再生回数も。


「……よし、今回の動画もモザイクなしでいこう! コープスたちには悪いが、PKしている奴らの方が悪いしな!」


 自分に言い聞かせるようにして動画編集を始めると、まずはゴブリンの巣ダンジョンの動画作成だ。

 こっちはほとんど編集作業がないので、不要な部分だけを削除して、つなぎ合わせて、それで終わりだ。

 次がPK集団返り討ち動画その2だけど……これも、まんまでいいか。面倒くさいし。最後に黒閃刀の能力だけ補足で足しておくとするかな。


「ラストは隠し職業への転職動画だ! ……とはいえ、条件が確定しているわけじゃないんだよなぁ」


 だって、俺がやったことといえば教官NPCを瞬殺したくらいだし、明確にこれが条件だとは言い難い。

 レベル15で挑戦したからってのも可能性としては捨てがたい。多くの場合はレベル10の時点ですぐに転職をしたがるからな。


「……挑戦した時のレヴォのステータスでも載せておくか」


 もちろん、全てを開示するわけではない。

 情報は武器になるわけで、この動画をコープスたちが見ていたら面倒だからな。


「公開する情報はレベルとプレイ時間、職業がノービスだったことくらいかな?」


 俺はレヴォのステータスで非公開にする部分をモザイク加工し、動画も削除とつなぎ合わせの作業を行って、ようやく終わりだ。

 こいつがどれだけ再生回数を稼いでくれるか。PK集団返り討ち動画その1は超えてくれると信じたいな。


「……いや、待てよ? この動画をコープスたちが見たら、何か対策を取られるんじゃないのか?」


 こっちが暗殺者系の職業に転職したと知れば、それ相応の対策を取ってまた仕掛けてくるかもしれない。

 双剣の暗殺者であれば早々遅れを取ることはないと思うが、相手がギルドであればギルマスはそれなりに強いのだろう。

 しばらく考えた結果、俺は隠し職業への転職動画だけはアップを保留することにした。


「PKギルドとの問題が片付いたら、こっちをアップするかな」


 再生回数を稼ぐには絶好のネタなのだが、アップしたせいで変に対策されるのは面倒だ。

 それならば問題を解決させてからアップするのが妥当かもしれない。


 ――ぐううぅぅぅぅ。


「……うぅぅ、腹の虫が、鳴ってるよ」


 お菓子くらいはあったかなぁ、ちょっと探してこようかな。


 ――結局、お菓子すらも見つけられなかった俺は、水をたらふく飲んでこの日を凌ぎ、そのまま眠りについたのだった。

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