22.隠し職業

 あまりに呆気なく終わり過ぎて、俺は少々拍子抜けしてしまう。

 まあ、ゴールドの時も似たようなものだったし、さっさと転職できるならそれに越したことはない。

 そう思っていたのだが、教官NPCは予想外の言葉を口にした。


「お見事だ! 君ほどの実力者であれば、もう一つ上の課題に挑んでもらうのもありかもしれないのである!」

「……なんだ? もう一つ上の課題って?」


 転職の神殿では課題をクリアすることで特定の職業になることができる。

 しかし、教官NPCが口にしたような一つ上の課題なんて話は聞いたことがない。

 これも、隠しイベントってことなんだろうか。


「……俺以外にも一つ上の課題に挑戦した人はいたんですか?」

「大きな声では言えないが、君で三人目である!」


 ……十分大きな声ですけどね。まあ、この場に俺とあなたしかいないからいいんだけども。


「ただし! クリアできた者はまだ一人もいないのである!」

「ということは、俺が初めてのクリア者になるってことか」

「ふははははっ! ものすごい自信なのであるな! だが、今までの挑戦者も似たようなものだったがな! どうだ、挑戦するか?」


【■発展クエスト:隠し職業への挑戦 ■クリア条件:課題の達成 ■クエスト難易度:C~A ■クリア報酬:隠し職業への転職、???? ■Y/N】


 はは、わかり切った質問をしてくるじゃないか。


「当然、YESだ!」

「よく言った! では、三階へ行こうではないか!」


 教官NPCと戦っていたフロアには上に進む階段は見当たらない。

 しかし、教官NPCが歩き出した途端――奥の壁が横にスライドしていき、その先から三階へ続く階段が現れた。

 それにしても、クエスト難易度の表示のされ方と、このクリア報酬は……ふむ、条件が複数ありそうだな。


「ついてこい!」


 おっと、考えている暇はないようだ。

 俺は教官NPCに続いて階段を上がっていく。

 そして、三階に到着するとそこでは三人の暗殺者NPCがこちらを出迎えてくれた。


「三人は転職の神殿に所属している凄腕の暗殺者である! 彼らを同時に相手取り、制限時間内で生き残れれば課題クリアなのである!」

「生き残るだって? それ以上の結果を残してやるよ!」

「ほほう! それは楽しみなのである!」


 俺が構えを取るのと同時に、10カウントが表示される。だが――


「……10……9……8……ゼ、ゼロ!?」


 10カウントのはずが、まさか8からいきなりゼロになりやがった!


「「「しゅっ!」」」


 出鼻をくじかれたのは俺だけで、暗殺者NPCたちはいきなりゼロになるのがわかっていたのだろう、一斉に飛び掛かってきた。


「暗殺者とは常にイレギュラーと隣り合わせなのである! この窮地、乗り越えてみせるのである! 残り2分55秒!」

「簡単に言ってくれるじゃないか!」


 敏捷も教官NPCよりは高いようで、先手を取られた時点で回避は難しい。

 だが、こっちにはようやく回復したスキルが一回だけ残っているんだよな!


「瞬歩!」

「「「――!?」」」


 ストックを使い切っていた瞬歩だが、ここに来るまでの間に3時間が経過してストックが一つだけ回復していた。

 回避のために使うのは勿体なかったが、今回に限っては仕方がない。

 暗殺者NPCの間合いから一気に逃れた俺は、相手の態勢が整う前に攻撃へ転じる。

 同時に攻撃を仕掛けてきた三人の暗殺者NPCだが、狙いがそれぞれで違っていたので攻撃後の着地地点も異なっている。

 俺は一番近い暗殺者NPC目掛けて全力で駆け出すと、鋭く隼の短剣を横に薙ぐ。


「――!?」

「よし! まずは一人!」


 横っ腹を深く斬りつけてその場に膝をついた一人目を足蹴にして距離を取り、残る二人からの追撃を回避する。

 さすがは暗殺者だな。仲間がやられても冷静にこっちを倒そうと武器を振ってきやがった。

 すると、今度はあちらから前進してきて左右の時間さ攻撃を仕掛けてくる。

 片方を隼の短剣で受け流し、もう片方は紙一重で回避する。

 しかし、刀身が軽く触れたのかHPが一気に二割減少した。


「うおっ!? 掠っただけでこのダメージは反則だろう!」

「体力が低すぎるのである! だがまあ、暗殺者を目指すならこれくらいがちょうどいいのであるか? 残り2分!」

「一人で勝手に納得してんじゃねぇっての!」


 こんなことなら体術系のスキルも獲得しておくんだったぜ。

 しかし、過ぎたことを後悔しても仕方がない。

 二人の暗殺者NPCと切り結びながら、一度タイミングを見計らい全力で駆け出し距離を取る。

 そして、隼の短剣から黒閃刀に装備を切り替えた。


「戦闘中に装備の変更とは、なかなかにやり慣れたユーザーではないか!」

「スキル発動――透明化」

「なんと! そんなスキルがついていたのであるか! 残り1分30秒!」


 俺はNPCの目の前でスキルを発動させると、その姿を徐々に消していく。

 マズいと思ったのか二人の暗殺者NPCが一直線に突っ込んできたのだが、あちらの武器が俺を捉える前に移動すると、今度は完全に姿を消してみせた。

 確か、5分経過するか音を出すと効果がなくなるんだったな。

 ……それじゃあ、二人目っと。


「――!?」


 俺は音を一切出すことなく黒閃刀を突き出して暗殺者NPCの胸を貫いた。

 残る暗殺者NPCは一人だけ。


「残り45秒!」


 それだけの時間があれば十分だ。

 足音を立てることなく移動し、俺は後ろから残る一人の暗殺者NPCの首を掻き切った。


「――!?」

「終了! 残り時間12秒を残して、課題クリアなのである!」

「よっしゃーっ!」


 発展クエスト、達成だ!

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