8.ワンアース

 普通に攻略した場合は【チュートリアル塔制覇!】で終わりだったはず。

 しかし、今回は【チュートリアル塔完全制覇!】と出てきた。

 ……これ、報酬に期待ができるんじゃないのか? 希少級以上は確定だろう?


「ご主人様、おめでとうにゃ!」

「……ニャーチ、知ってたなら教えてくれよ?」

「僕たちは隠し設定を教えることはできないのにゃ!」

「……まあ、それもそうか」


 笑顔ではっきりと答えてくるニャーチを見ながら、納得し頷いた。


「これでチュートリアル塔は終わりだにゃ! この次はついにワンアースの大地を踏みしめるのにゃ! 準備はいいかにゃ?」

「あぁ、もちろんだ!」


 俺がそう答えると、次にこんなメッセージが現れた。


【AIを非表示にしますか? Y/N?】


 この表示が出た途端、ニャーチの表情がやや曇った。

 そうだ、こんなシステムもあったんだったな。

 ワンアースでのAIの役割はシステムの説明を行うのが基本で、あとは簡単な会話を楽しむ程度のものだ。

 配信が開始された当初こそユーザーとAIのやり取りは普通だったが、徐々に効率的にプレイするユーザーが増えてくると、AIの非表示が推奨されていった。

 これはAIとの会話を楽しむユーザーが減ったことも理由の一つになっている。

 中には表示させたままのユーザーもいたがそれは極々少数で、多くの場合がソロでプレイしているユーザーだった。

 その極々少数のユーザーというのが――


「NOに決まってるじゃないか」


 俺がNOを選択すると、ニャーチの表情がわかりやすく笑みを浮かべた。


「ほ、本当に表示してくれるのかにゃ!」

「あぁ。俺は基本的にソロでプレイしているからな。話し相手がいてくれる方がありがたい」

「嬉しいのにゃ! ありがとうだにゃ、ご主人様!」


 ニャーチが俺の足に抱きついてきた。

 ……くっ! かわいいじゃないか!


「それじゃあ早速行くのにゃ、ご主人様!」

「あぁ、そうだな!」


 予想以上にチュートリアル塔で楽しませてもらえた。

 本来の目的はゴールドを乗っ取った奴を叩き潰すことだが、それと同時に俺の心にはこんな思いが芽生え始めていた。


「……せっかくだ。レヴォで見るワンアースの世界を楽しむのもいいかもしれないな」

「たくさん楽しむのにゃ!」


 俺の言葉を聞いていたのか、ニャーチが笑顔でそう口にした。


「……あぁ、そうだな。ニャーチと見るワンアース、楽しみだ!」

「にゃにゃ!」


 体が光に包まれていき、その光が上空へ飛んでいく。

 この光がワンアースの始まりの村、そこにある光の祠へと飛んでいき、ユーザーはようやくワンアースの大地を踏みしめる。


「待っていやがれ、乗っ取り野郎! 俺が絶対に――ぶっ潰してやるからな!」


 こうして俺はチュートリアル塔を終えた。

 新記録を達成し、隠し階段を発見してドラゴンを討伐した。

 今後、俺の記録を更新しようと別のユーザーが5分の壁に挑み隠し階段の内容が攻略サイトに載るのも時間の問題だろう。

 俺が情報を載せてもいいのだが、時間が勿体ないので却下だ。

 こちとらレベル1からレベリングをしなければならないんだからな。

 それもこれも乗っ取り野郎のせいなんだが……まあ、隠し階段の件だけは感謝しておくとするか。


 ◆◇◆◇


「――……あぁ、懐かしいなぁ。確か、こんな場所だったわ、光の祠」


 洞窟の奥に作られた光の祠。

 光源はここにしか存在していない光を放ちながら空中を浮遊している発光虫だ。


「……やっぱり捕まえられないかぁ」


 なんだか色々と思い出してきた。

 ゴールドの時もこうやって手を伸ばしてみたが、不思議なものでこいつだけは捕まえられなかったんだよなぁ。


「ワンアースの世界へようこそにゃ!」


 俺が感慨深いものを感じていると、足元からニャーチの嬉しそうな声が聞こえてきた。


「あぁ、そうだったな。それじゃあまずは――報酬だ!」

「隠し階段の課題をクリアしたのにゃ! とっても豪華な報酬になっているはずなのにゃ!」


 楽しそうに話ながら、俺たちは報酬が入っている宝箱の方へ歩いていく。

 祠の正面に置かれていた宝箱。それに手を伸ばしながら、俺はとてもワクワクしていた。


「さーて、何が出てくるかな!」


 宝箱に触れると、蓋が自動的に開いて中からアイテムが飛び出してきた。


「……おぉ……おおぉっ! こいつは――伝承級のナイフじゃないか!」


 俺はいきなりの伝承級武具に、興奮を爆発させた。

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