7.隠し階段

 攻略サイトにも載っていなかったが……あっ、そうか。ニャーチは確かに言っていたじゃないか。


「5分以内で攻略するのが、隠し階段出現の条件だったのか」

「そうだにゃ! でも、今までは誰も成し遂げることができなかったのにゃ!」


 まあ、今までの1位が7分だったからな。


「しかし、そうなると何が待っているのやら……ヤバい、楽しみだな!」


 乗っ取った奴を叩き潰すために始めたレヴォだが、チュートリアル塔でいきなりゴールドで知らなかったイベントに遭遇できるなんて。

 ……セカンドキャラ、楽しいじゃないか。


「それじゃあ、早速行ってみようぜ、ニャーチ!」

「行くのにゃ!」


 俺はニャーチと共に階段を上がっていく。

 すると、今まではチュートリアル塔の内部だったが、上がった先は塔の屋上になっていた。

 真っ白の空間だったはずだが、そこだけは漆黒の分厚い雲が空を覆い隠しており、雷が鳴り響いている。

 雰囲気からして強敵が現れそうな感じだが……さて、どうなることやら。


「……見渡した限りだと、何もいないか。姿を消す系のモンスター、ゴーストとかそんな感じか?」


 そんな考えを巡らせていると――上空から何やら音が聞こえてきた。


 ――バサッ、バサッ。


 ……嫌な予感がする。

 俺は恐る恐る音の方へ視線を向けたのだが……おいおい、マジかよ。ここ、チュートリアル塔だよな? まだワンアースにすら足を踏みしめていないんだが?


「……はは、ドラゴンって、ありなのか?」

『グルオオアアアアァァアアァァッ!!』


 周囲の空気が震えるほどの咆哮を発しながら、ドラゴンが屋上に降り立った。

 ズシンという音が響き、小さく塔が揺れる。

 ドラゴン種はモンスターの中でも最強の種族だ。中でも最弱と呼ばれるドラゴンベビーですら希少級に分類される。

 それなのにこいつは、成熟した大人のドラゴンだ。


「……それだけで、伝承級のモンスターじゃないか!」

「ご主人様なら倒せるにゃ! 頑張るにゃ!」

「簡単に言うけど、さすがにこれはやり過ぎなんじゃあ――」

『グルオオアアアアァァアアァァッ!!』


 俺の言葉を遮るようにして、ドラゴンが再び咆哮をあげた。

 あまりの衝撃で数枚の床が捲れ上がり、吹き飛んでいく。

 こちらに飛んできた床を切り裂いて視界を確保したが、直後にはドラゴンの口内で揺れる赤い光を見てしまった。


「初っ端――ブレスかよ!」


 円状になっている屋上を時計回りに駆け出し、ブレスの直撃を避けていく。

 首がこちらに向けられるとブレスが波を打って追い掛けてくる。

 ブレスの放出時間を計算しながら、俺は時計回りから一転して直角に曲がりドラゴンへ向かっていく。


『グルルルルゥゥ』

「ドンピシャ!」


 ブレスはドラゴンの中でも最大火力を誇る攻撃の一つだ。

 そんな攻撃がクールタイムもなしに使えるわけもなく、さらに硬直時間も発生する。

 希少級なのでワンキル判定はないが、その代わりにダメージが二倍になる弱点が複数存在しており、俺はそのうちの一ヶ所へ二連撃を叩き込んだ。


『ガルアアアアァァアアァァッ!?』

「一撃、離脱!」


 密着してきた相手には体を揺さぶり振り落とし、そのまま体を捻って竜尾攻撃を仕掛けてくる。

 ドラゴンの竜尾は長く、俺の敏捷では射程範囲外に移動することはできない。


「だから――こうだ!」


 俺は着地と同時に大きく飛び上がった。

 確かに竜尾は長いが、太さはそこまでない。

 これもギリギリのタイミングが必要だが、俺の跳躍が最高に達したところで竜尾が真下を通り過ぎていく。

 竜尾は一周したところで止まるので、俺は着地と同時に再びドラゴンへの攻撃を再開させる。

 今度は三連撃を加えてから、硬直が解けるタイミングで距離を取る。

 ゴールドであれば攻撃力、耐久力がずば抜けて高いので、接近戦で押し切ることもできるが、そうでなければ基本はヒットアンドアウェイ戦法が有効だ。

 まあ、俺の場合はレベル1なわけで、これ以外の戦法で倒せるはずもないんだけどな。


「強力な装備があれば、もっとやりようは、あるんだろうけどな!」

『グルオオアアアアァァアアァァッ!!』


 こうして、俺はドラゴンの攻撃を回避し、硬直時間を利用して弱点に攻撃を加えて、また攻撃を回避してを繰り返していく。

 チュートリアル塔なのだから少しは弱体化しているだろうと思ったが、攻撃が五〇回を超えた時点で通常のステータスだと淡い期待を捨てることにした。

 10階までの攻略速度はどこへやら、気づけばドラゴンとの戦闘は2時間を超えていた。

 しかし、ようやく終わりが見えてきた。何故なら――


『……グルルゥゥ』


 ドラゴンの動きが鈍くなり、口を開けたまま涎を垂らし始めた。

 あれはモンスターの耐久力が八割を切った証拠でもあるのだ。


「絶対に、倒して、やるぜ!」


 だからといって隙を見せるわけにはいかない。

 ドラゴンの攻撃が一度でも当たってしまうと、俺は即死まっしぐらなんだからな。


「よし! これで――ラストオオオオォォッ!!」

『グルアアアアァァアアァァッ!?』


 最後の一撃を弱点の眉間に突き立てると、ドラゴンは苦悶の声を響かせて、体から力が抜けていく。

 四肢が曲がり、巨体が横たわり、長い首が床に叩きつけられる。


【チュートリアル塔完全制覇! おめでとうございます!】


 直後、俺の目の前にはそんなメッセージが表示されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る