5.チュートリアル塔

 俺はそのまま2階へと進んだ。

 2階ではゴブリンライダー、3階でゴブリンウォーリア、4階でゴブリンナイト、5階でゴブリンウィッチと、ここまではモンスターが一匹だけだったのでゼロカウントになるのと同時にワンキル判定になる弱点へナイフを滑り込ませて勝利を手にしていく。

 このワンキル判定だが、モンスターが一般級の場合にしか出てこない設定だ。

 さすがに設定上、強敵とされているモンスターまで一撃で倒せてしまうワンキル判定ができてしまうのは、戦闘自体が破綻してしまいかねない。

 しかし、チュートリアル塔には一般級のモンスターしか出てこないので、ワンキル判定を駆使すれば記録更新は簡単である。

 おそらく7分という記録を叩き出したユーザーもセカンドキャラやサードキャラで達成したのだろう。

 ……まだまだ遅い記録だけどな。


「6階はワイルドウルフが三匹出てくるにゃ! 複数のモンスターを相手にするから気をつけるにゃ!」


 おっと、そんなことを考えていたら複数モンスターとの戦闘だ。

 こうなるとさすがにゼロカウント直後のクリアは望めない――と思うだろう? ニャーチも気をつけてほしそうにこっちを見ているが……よし、驚かせてやるか。

 10カウントが進んでいく中で、俺はナイフを構えて腰を落とす。


「……ゼロ!」


 地面を蹴りつけて前進し、登場と同時に先頭に立っていた一匹目をすれ違いざまに首を落とす。

 直後には残りのモンスターが動き出そうとするが、俺はさらに加速して動き出す前にナイフを振るい二匹目の首を刎ね飛ばす。

 さすがに三匹目は動き出してしまったが、俺の視線は常に三匹目を捉えていた。

 四肢を曲げてどちらに移動するかを把握しておけば、移動後に仕留めるのは容易である。

 というわけで、三匹目のワイルドウルフが移動する先へ先回りした俺は、簡単にワンキル判定の弱点にナイフを滑り込ませて勝負ありとなった。


「終了だにゃ! 6階の攻略時間は10秒だにゃ! これはすごいにゃ! 記録更新も夢じゃないのにゃ!」

「これくらい余裕だって。6階の時点で掛かった時間が24秒だろ?」


 こうなってくると、どうして他のユーザーが7分以上掛かったのかがわからなくなってきたな。

 とはいえ、油断は禁物だ。

 確実にワンキル判定を取れなければ時間が掛かってしまうし、そうなると新記録を獲得できなくなるかもしれない。

 最低でも10分を切れれば希少級を獲得できるとは思うが、そこは気持ちの問題である。


「それじゃあ、7階からもしっかりワンキル判定を取りにいきますか!」


 7階に上がるとビッグベアーが現れたが、個体の強さがあってか一匹だったので問題なくワンキル判定を獲得する。

 8階でスケルトンナイト五匹、9階でトレント五匹と複数モンスターと戦うことになったが、こちらも全員をワンキル判定で仕留めた。

 多少の時間は消費したが、それでもここまでを2分30秒でまとめられているのは十分な成果だといえるだろう。

 残すはラスト10階、ここには一〇匹のモンスターが現れるらしいのだが、どのモンスターが現れるのかはランダムらしい。


「タイムから難易度を設定してると思うんだが、どうだろうなぁ」


 現在の俺の記録はきっと最速だろう。10階で5分近く掛かるとも思えないし、新記録を叩き出すことは可能なはずだ。

 しかし、ここまで来たならせっかくだし5分を切って攻略したい気持ちも出てきたな。


「……やってみるか」

「ご主人様! ついに10階だにゃ! 頑張ってほしいのにゃ!」

「あぁ、もちろんだ」


 5分を切るため残された時間はちょうど半分で2分30秒。

 出てくるモンスターの数は多いが、不可能な数字ではないはずだ。

 俺は記を引き締め直し、ニャーチを見て一度頷いた。


「それじゃあ、カウントダウンを始めるにゃ!」


 何が出てくるのか、どちらにしても開始と同時に前に出ることは変わらない。

 ナイフを握り直し、小さく息を吐く。

 10カウントを見つめながら、ゼロになった瞬間に飛び出した。

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