4.セカンドキャラ
「――……初めの時以来だなぁ、チュートリアル塔は」
真っ白な空間の中にそびえ立つチュートリアル塔は、戦闘の基本を学ぶために新規ユーザーが必ず通る場所でもある。
他のゲームだとチュートリアルをスキップすることができるものもあるが、ワンアースではそれができない。
何故かといえば、チュートリアル塔で課される課題の成果によって、ワンアースの世界に移動した時に贈られる報酬が変わってくるからだ。
ユーザーの中にはどんな報酬が手に入るのかを検証するためにセカンドキャラやサードキャラなど、多くのアカウントを取得して検証した人もいたくらいだ。
「しかし、攻略サイトで見たけどレア度は高くて希少級だったな」
ワンアースには装備だけでなく、モンスターにも等級が存在している。
下から一般級、希少級、伝承級、伝説級、神話級が最上の等級だ。
序盤では希少級でも十分強力な装備となるが、少なくとも伝承級以上の装備でなければ特殊スキルが使えないので、希少級はすぐに使わなくなってしまう。
オークションに出すにしても伝承級以上でなければ儲けを出すことはできず、ランカーから見れば希少級まではゴミとすら言われていた。
「とはいえ、ゲーマーとしてはチュートリアル塔でも成果を出しておきたいな。攻略の記録が確か見れるはずだけど……あった、あった」
俺はチュートリアル塔の入り口横にある立て看板に移動しようとした――その時だった。
「――名前を設定してくださいにゃ!」
「うわあっ! ……あっ、そうだった。まずはアバター設定だったな」
何年も前のことだからすっかり忘れていたぞ。
「……このAI、かわいいなぁ」
「あはは! ありがとにゃ! 僕はご主人様担当AIのニャーチだにゃ!」
そうそう、こういうのもいたっけ。
ユーザーをサポートするためのAIだが、その形態はユーザーによって異なっている。何か基準があるのかはわかっておらず、ユーザー間では完全なランダムだと言われている。
今回のAIは白黒の猫型、俺の膝くらいの高さなのでこちらに上目使いしている格好だ。
「よろしくな、ニャーチ」
「よろしくにゃ! それでだけど、ご主人様の名前を設定してくださいにゃ!」
「おっと、そうだったな」
名前かぁ。
……うーん、どうしよう。何も考えていなかったなぁ。
メインキャラがゴールドだったから、セカンドキャラはシルバーとか? ……さすがに単純すぎるか。
乗っ取った奴を叩き潰すのは当然だけど、せっかくならセカンドキャラで新しいことをやってみたい気もするんだよなぁ。
……革命、変革、これでいくか!
「俺の名前は――レヴォ!」
「了解だにゃ! ご主人様の名前を【レヴォ】で設定するにゃ!」
ユーザーの頭上に表示されるアバター名が【プレイヤー】から【レヴォ】に変わる。
「早速だけどご主人様、チュートリアル塔の説明は必要かにゃ?」
「いいや、大丈夫だ。それよりも攻略記録の看板を見てもいいか?」
「もちろんだにゃ!」
俺たちは看板の前に移動すると、ランキング1位の記録を確認する。
「へぇー、10階までを7分か。……よし、まずはこいつを破りにいくかな」
「おぉーっ! さすがはご主人様だにゃ!」
「応援よろしくな、ニャーチ」
そのままチュートリアル塔の中に足を踏み入れると、中は奥行き10メートルほどの真四角な空間になっている。
そこの何もない空間に突如として多種多様な武具が現れた。
「ご主人様! 次は武器を選んでほしいのにゃ!」
「武器ってことは、戦闘スタイルを決めるわけだ。ふふふ、そこはすでに決めているんだよなぁ」
というわけで、俺が手に取ったのは――
「おぉーっ! ナイフなんだにゃ!」
「あぁ。俺はこれで、暗殺者スタイルを目指すんだ!」
ゴールドが無駄に目立つ金ピカ仕様で、俺様キャラを作っていた。
なら、今回は真逆の地味系キャラでいってみようと思ったのだ。
……というか、俺本来の姿をそのまま反映させるスタイルというべきかも?
「次はアバター設定だにゃ! 好きに見た目を変えることもできるし、ご主人様の姿を反映させることもできるにゃ! どうするにゃ?」
「そのまま反映してくれ」
「わかったにゃ!」
地味キャラでいくなら、そのまま俺を反映させた方がいいだろう。
……うん、自分で言ってて悲しくなるから考えるのは止めようかな。
「それじゃあ――チュートリアル塔に挑戦するかにゃ?」
「もちろんだ」
「カウントダウンが始まるのにゃ! 新記録に挑戦するなら気をつけるのにゃ!」
ニャーチが話し終わると、目の前に10カウントが表示された。
10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……。
「ゼロ!」
『ゴブ――ビギャ!?』
開始と同時に駆け出した俺は、ナイフを鋭く横に薙いでゴブリンの首を刎ね飛ばした。
「終了だにゃ! すごいのにゃ、ご主人様! 1階の攻略時間――2秒だにゃ!」
よしっ! 幸先のいいスタートだな!
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