3.ログイン

「……やっぱり、ゲームしかないよなぁ」


 ゲーム配信者として大金を稼いできた俺である。やれることといえば同じことしかなく、結局はこれでやり直すしかない。

 とはいえ、このVRカプセルには不安もある。


「……ウイルスとか、ないよなぁ?」


 俺が持つアカウントの一切合切が乗っ取られたのだから、関連する機械にウイルスが送り込まれている可能性も考えられるんじゃないのか?

 もしそうであれば、相手は俺のアカウントがゴールドであることを知らずに乗っ取った可能性もあり、ゴールドを作り出したユーザーだったのかとわかれば再び何かを仕掛けてくる可能性もあるのではないか?

 そうなった場合、ウイルスの可能性が考えられるVRカプセルをそのまま使ってしまっていいのだろうか?


「……しかし、お金がなぁ~。ないんだよなぁ~」


 安物のVRカプセルでも10万円はくだらないし、中古だとしても5万円は最低でも必要になるだろう。

 高価なものであれば20万円以上するものもあり、実際に俺が使っていたこいつは当時の最新VRカプセルで30万円もした代物だ。

 今でも新品で15万円はするやつなんだが……それが、乗っ取られたんだよなぁ。対策も万全だったはずなんだけどなぁ。


「どうにかしてお金を工面しないと。最低でもこいつよりも最新機種じゃないと安心はできないし、外部からの侵入に備えるならVRカプセルだけじゃ足りない。そうなるとやっぱり30万円以上は必要だが……うーん……」


 俺は考えに考えた。どうにかして20万円以上のお金を工面できないかを。そして――


「――買い取り、ありがとうございましたー!」


 …………売っちゃった。VRカプセルと、その他諸々の家電たち。

 今でも人気な機種だったこともあり、VRカプセルだけでとりあえず5万円。テレビやオーディオ機器、生活と配信に必要なもの以外を全て売って手に入れた資金は――


「……合計、10万円かぁ」


 全然足りない。これでは安物か中古品しか購入できないし、配信周りの設備を整えることも無理だ。

 となると、俺が取れる手段はこれしかない――


「――ありがとうございましたー! 返済にはお気をつけくださーい!」


 …………借りちゃった、消費者金融から。

 VRカプセルと配信周りの設備、そして来月までの食費を含めて40万円の借金。

 とりあえず合計で50万円が手元に現状で、俺は真っすぐに家電量販店へ向かった。


「……いやー、久しぶりに来たけど、変わったなぁー」


 最近はずっとゲームばかりをして、食事は出前を取り、外に出ること自体がほとんどなかった。

 家電量販店なんて、マジでどれくらいぶりが変わらないくらいだ。


「おっ! あった、あった。VRカプセル……あー……えっ?」


 ……おかしいなぁ。確かにネットで情報を確かめてから消費者金融でお金を借りた。50万あれば十分に足りるはずだった。


「……最新機種、本日発売? 値段が――50万円?」


 ……………………買っちゃった~。最新機種、買っちゃったよ~。

 うん、言い訳をさせてくれ。だいぶ交渉をさせてもらったんだぞ? 配信周りの設備も含めてこの価格! うん、安い!


「安くねぇよおおおおぉぉっ! 全財産使っちまったよおおおおぉぉっ!」


 俺、どうやって生活していったらいいんだよおおおおぉぉっ!!


「…………うん、水を飲もう。それで一ヶ月、なんとか耐え忍ぶかなぁ」


 最終的には洗濯機とか売って、洗い物は手洗いにするとか……いつの時代だよ。

 しかし一ヶ月後、新しい配信を始めての広告収入が入ってきたら、きっと多少は生活も安定する……はずだ。

 新人配信者の枠になるからそこまで稼ぎが多くはならないだろうけど、ゼロよりかはマシだろう、ゼロよりは。

 とにかく、俺はVRカプセルを自宅に運び入れてもらい、配信周りの設備も問題なくなった。

 これでようやくスタートライン……いや、借金があるからまだマイナスだけど、そこは一旦置いておこう。

 生活費を稼ぐのと借金返済、そして一番の目的は――乗っ取り野郎を叩き潰すこと。

 そして、それを成し遂げるためのゲームは結局――


「ワンアースしかないよな! ゴールドは乗っ取られたけど、あいつが俺のメインキャラだ。ってことは、今から作るアカウントはセカンドキャラになるのか」


 ……絶対に、叩き潰してやる。

 せっかくならゴールドとは真逆のアバターを作ってやろう。

 巨漢で大剣を振り回し、力押しを持って全ての敵を薙ぎ倒してきたゴールドだが、真逆のアバターとなれば技術を持って相手を素早くスタイリッシュに倒していく、そんなスタイルがいいな。


「……よし、決まった。早速ログインするか!」


 俺はVRカプセルの乗り込むと、その中で横になりワンアースを起動させる。

 チュートリアルから始まるワンアースなんて、久しぶりだな。


「……はは。危機的状況なのに、楽しくなってきたわ」


 根っからのゲーマー魂に火がついてしまった俺は、ワクワクしたままワンアースにログインしたのだった。

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