第一章:セカンドキャラ・レヴォ

2.乗っ取り

 翌朝、目を覚ました俺はいつも通りのルーティーンで眠気を覚ましていた。

 しかし、スマホを手に取りゴールドによる動画配信の広告収入を確認しようとした時――その異変に気がついた。


「……なんだ? ログイン、できない?」


 広告収入を振り込んでもらっているネット口座にログインができなかった。

 IDやパスワードを変えた覚えはない。というか、昨日まではログインできていたのに、どうして今日はログインできないのか。

 もう一度トライしてみても結果は変わらず、とりあえず別のネット口座にログインしてみようとしたのだが――


「はあ? こっちもログインできないのか? ちょっと待て……こっちも……なんで、こっちもかよ!」


 連携しているどの口座にログインしようとしても、全く受け付けてくれない。

 何がどうなっているのかわからず、俺は動画配信のサイト運営に問い合わせを送ったあと、口座の方にも同様の問い合わせを送っていく。

 全ての口座に問い合わせを送り終わると、動画配信サイトの方から返信が返ってきた。


「はは、さすがはゴールド様だ。運営も優先して返信してくれたみたいだな」


 俺がどれだけ運営に貢献したと思っているのだ。

 そんなことを考えながらメールを開いてみたのだが、そこに書かれていた内容は俺の予想とは全く異なるものだった。


「……な、なんだよ、これは! 俺がゴールドのなりすましだって? ふざけんなっ! こっちは本物のゴールド様なんだぞ!」


 まるでテンプレのような本文を見ながら、俺は苛立ちを隠せずテーブルに拳を振り下ろした。

 その後、各銀行からも返信が返ってきたのだが、その全てが『本人確認が取れない』『情報を開示できない』『なりすましの可能性があり』等など、取り付く島もない内容のものばかりだった。


「……いったい、何が起きてるんだ? ……そうだ、ゴールド! ワンアースにログインして、ゴールドで声明を出せばこいつらの態度も変わるはずだ!」


 そう思い立った俺は、駆け足でVRカプセルに飛び込んでワンアースにログインしようと試みた。しかし――


「……噓、だろ? こっちも、ログインできない?」


 ……詰んだ。いや、何がどうなっているのか、さっぱりわからない。

 ワンアースも、銀行も、どうしてログインができないんだ? IDやパスワードが変わったなんて連絡はどこにも届いていない。

 こんなもの、誰かが勝手に変更したとしか考えられない。……誰かが、勝手に?


「……まさか、乗っ取られたのか? 動画配信サイトのアカウントも、連携していたネット銀行の口座も、ゴールドのアカウントも?」


 ……俺の全部が、乗っ取られたのか?

 ……………………は?


 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………もう、夜か。

 どれだけ放心していたのだろうか。

 朝目覚めてから、ログインできなくて、今がもう夜だろ? ……腹、減ったなぁ。


「……そっか。口座がないから、支払いができないじゃん」


 段々と頭の中が冷静になってきた。

 今の俺には金がない。現金なんてここ最近はまったく手にしていなかったし、全てをカード払いや口座引き落としにしていたせいだ。

 というか、このご時世で現金払いしかしていない人間の方が珍しいだろう。

 そして、俺の助けになってくれるやつも誰一人として存在していない。

 最後の可能性に懸けてワンアースの運営に問い合わせてみたものの、こちらもテンプレのような返信で『本人確認が取れないので情報を開示できません』というものだった。


「……来月の家賃すら、払えないんだが?」


 ゲーム配信者になると親に告げた時、俺は隼瀬家から勘当されたも同然に家を追い出されている。

 成功してしまえば見返せると思っていたものの、結局は親に連絡を取ることもせずに今日まできてしまった。

 ここで俺がゴールドだと伝えても、アカウントを乗っ取られたんだと伝えても、信じてもらえるはずがない。

 家族を失う覚悟でゲーム配信者になり、成功を手にしたというのに、今日になって全てを失うことになるなんて。


「今から警察に……でも、同じようになりすましどうのこうの言われるのも嫌だなぁ」


 ここまで来ると、何をしても誰も助けてくれないんじゃないかという思いにしかならない。

 そして、誰かを頼るではない、別の感情が現れ始めた。


「……なんだろう、ものすごく、ムカついてきたんだけど?」


 というか、乗っ取りなんて、ワンアースか動画サイトかネット口座か、どっかの運営に問題があったからこうなったんだろうよ! 絶対に俺が悪いはずがない!

 そう考えると、俺の全てを奪った奴に対しての怒りが沸々と湧き上がってきた。


「……どうにかして、やり返せないのか? 俺にできること、俺にできることは……」


 そう考えた俺の視界に飛び込んできたのは――VRカプセルだった。

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