トップランカーになったセカンドキャラ ~奪われたアカウントを乗っ取り野郎と合わせてぶっ潰す!~

渡琉兎

1.プロローグ

「――ぬおおおおぉぉおおぉぉっ!!」


 金色の全身甲冑を身にまとった俺は、自らの身長よりも長い大剣を振り下ろした。


 ――ズバッ!


 ヒットの効果音が鳴り響くと、今回のレイドボスである火炎竜インフェルノワの首がボトリと地面に落ちる。

 俺の頭上には【レイドクリア!】の文字が浮かび上がり、その周囲には小さな花火が打ちあがったかのようなエフェクトが現れた。


「ふははははっ! どうだ、皆の者! これがワンアースのランキング1位である、ゴールド様の実力よ!」


 生配信中のカメラに向けて、俺はこれでもかと胸を張りながらそう告げる。


「さーて! レイドもクリアしたので、本日の配信はこれで終わりだ! 次の動画も楽しみにしておくんだぞ! ふははははっ!」


 こうして、俺のアカウント――ゴールドによる今回の配信を終了した。


 ◆◇◆◇


 ――全世界で社会現象を巻き起こしている大人気VRゲーム『ワンアース』。


【100を超える職業から、誰にも縛られずに新しい自分を見つけよう!】というテーマの下に配信が開始されたワンアースは、発売直後から爆発的な速度でダウンロード数を稼いでいき、配信開始から三年が経った今では20億人以上のユーザーがワンアースの世界で生活を送っている。

 これはゲームを楽しむだけではなく、ゲーム内で手に入れたゴールドを現金に換金できるとあって、ゲーム好きだけではなく多くのプロゲーマーが参戦してきた。

 今もなおアップデートされながら進行しているメインクエスト、メインクエストと合わせて設定されているサブクエストや発展クエスト、そしてNPCにより無限に発生する自動生成クエストなどが、どれだけやり込んでもまだ足りないと思わせることができるゲーム性が要因になっている。

 ただし、それだけで社会現象を巻き起こすほどの大人気になるわけがなく、そのゲーム性だけではなく、まるで現実ではないかと錯覚させてくれるほどの映像美が視覚を楽しませてくれるとあって、多くのユーザーを虜にしていったのだ。


 そんな中、ゴールドは全ユーザーの中で最も多くのクエストに関わったクエストポイントで競われる全世界ランキング、高値で取引されるアイテムが眠るとされるダンジョンの攻略数ランキング、ユーザー同士が戦いポイントを競い合うアリーナランキングで1位を獲得している、正真正銘のトップランカーだ。

 ゲームの生配信を行えば一時間以内で1万人近くが集まり投げ銭が始まり、その後も再生回数が100万回を超えるなど、ゲーム配信で稼ぐ典型的な形を作り出していた。

 だが――それも数ヶ月前までの話である。


 ◆◇◆◇


「――……はぁ。今日もこれで終わりだなぁ」


 VRカプセルの中で小さくため息をつきながら、俺は外に出て大きく伸びをした。


「……最近は、つまらなくなってきたなぁ」


 全世界ランキング、ダンジョン攻略数ランキング、アリーナランキング、これら三つのランキングで1位を獲得したゴールドだが、ソロで獲得できるランキングとしては網羅した形になっている。

 ならばギルドを立ち上げたり、パーティを組めばいいじゃないかと思われるかもしれないが、俺はあまり人付き合いが得意な方ではなく、むしろ言葉選びを間違えて問題を引き起こす役目を担うまであるので、極力一人で活動できる方が性に合っていた。

 だからではないが、やれることがなくなってきたこともありワンアースに飽き始めていた。


「ゲームで稼いでいるから文句は言えないけど、何かもっと楽しみが欲しくなってきたんだよなぁ」


 ぶつぶつと呟きながら部屋を出て台所に移動すると、出前を頼むためにスマホに手に取りさっさと注文を済ませてしまう。

 テレビをつけてボーっとしていると、チャイムが鳴ったので玄関に向かいドアを開けた。


隼瀬はやせ光輝こうき様でお間違いないでしょうか?」

「はい」

「こちら、注文のステーキ弁当です!」

「ありがとうございます」


 最低限の会話だけで弁当を受け取ると、配達人を見送ってからドアに鍵をかけて廊下を進んでいく。

 廊下の途中に置いてある姿見を横目で見ながら、今日も髪はぼさぼさだなぁ、という感想を抱きながらリビングのテーブルで食事を始めた。


「……アイテムを売れば、さらに大金を手にできるわけだし、そろそろワンアース引退も視野に入れようかなぁ。……二〇歳はたちで隠居生活とかあり得ないけど、それくらいの金は手にできそうだしなぁ」


 ここでもぶつぶつと呟きながら食事をしつつ、窓の外に目を向ける。

 外はすでに暗くなっており、今日はもうワンアースにログインするつもりはない。


「……寝るか」


 寝る準備を整えた俺は、欠伸をしながらベッドに潜り込んだ。


 しかし、この時にはすでに始まっていたのだ。

 俺が作り出した最高のアカウントであるゴールドの――乗っ取りが。

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