第38話 みんなでよってたかって
自分自身という巨大な闇――。
多くの者がそれに圧倒され、恐れおののき、それを超えることもできず、ともすれば呑み込まれてしまう。
おれは今まで、そんな自分自身ときちんと向かい合ってきただろうか。
ある時、いつものように座敷に寝転がっていたら、何とこの俺自身が家の中を覗き込んでいた。それが余りにも無遠慮だったから、こらっと叱って追い返してやったが、そんな風にいつも自分自身を顧みようとしてこなかったから、今になってツケが回ってきたのかもしれない。
とりあえず自分自身の性格について、繰り返しになるが列挙してみよう。
先ず一言で言えば、せっかちで
子どもの時分から、体育の教師と号令とうさぎ跳びが大の苦手だ。前に倣えも右向け右も左向け左も、みんな大っ嫌いだ。
竹を割ったような性格には程遠く、失恋後の行動一つとってみても未練がましいことこの上ない。
こんなお化け屋敷を、家賃の安さだけで飛びつくようにして契約したところなんざあ、そそっかしさを通り越して軽率だと言ってもいいだろう。
閉所恐怖症だから、雨戸と言う雨戸は開けっ
子供の時分からいろいろなものが見えたり、聞こえたりしたものだが、それで何か得をしたということもなければ、それほどの霊感や超人的な能力を授けられているという自覚もない。
よくもまあ、一人の人間にこれだけおかしな性格を、神様は詰め込んでくれたものだ。
さて問題は、そんなおれと、この家もしくはあやかしどもとの
このことについて、ほかの者は何と言っているのか。
先ずは、
近所の人間たちからは、「物好き。変わり者」扱い。
イソベンからは、「あなたは何かを引き寄せる特殊能力を持っているんだから、自分で解決したらいかがです?」と言って突き放される。
雲吉爺ちゃんは、「あやかしに頼らず、自分で解決しろ」と、いい加減なアドバイス。
モンジ老は悪態の限りを尽くす。
「お主は、自分が書けないのを乱れ髪の所為にしておるが、本当は違う。自分の身を削るような苦しい文章修行をお主はしているのか? 何が隠遁生活じゃ。お主は世の中に未練たらたらではないか。幾ら、無だ、
清さんもなかなか手厳しい。
「あなたは自分が小説を書けないのを、乱れ髪のせいにしたんです。そうやって、自分を誤魔化してきたんですよ。坊ちゃんは卑怯です」
石児童は、おれが子供の時分から背負っている妖怪だ。「重いかい?」とおれに尋ねたあと、「お前、少し大人になったな」と、褒めているのか何だか。生意気な。
最後に、幽便配達夫。別名、霊界通信使。こいつが長口舌だ。
「あなたは、御自分の意志や感情を、言葉を介さずに他者に伝えることができている。だったら、その逆も可能だとは思いませんか? あなたには、あやかしが見えるだけではなく、彼らの心を感じ取る能力も備わっているんです。
ほら、あなたの仰る乱れ髪さん、彼女の気持ちが分かれば、何か手立ても講じられるというものじゃありませんか?
しかし問題は、あなたのその能力が役に立つとか立たないとか、そういう話ではありません。これがあなたの宿命なのです。あなたはそれにしっかりと向き合って生きていくほかありません」
やれやれ、みんなでよってたかって言いたい放題だ。
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