第37話 そもそも何故こんなことに?

 おれは、問題点をここで、とりあえず整理してみることにした。


 それで何かが分かるというよりも、何が分からないのか明確にするのだ。或いは新たな謎が浮かび上がるかもしれない。


 しかし、謎は謎のまま、混乱していることは混乱しているままに、自分を誤魔化さず、虚心坦懐にここに綴ってみよう。


 そして、判断は保留し、ただ眺めてみるのだ。ここで一旦、世界と自分とを。


 まずは、おれがこの家に来た理由若しくは経緯。


 そもそもの発端は、京子との仲が破局し、世の中を捨てたくなったことであった。


 それには、辺境の地にあるこのあばら家がふさわしいと思った。しかし、小説家への夢絶ち難しということもあり、出版社の多い東京から遠くないこの地を選んだのである。


 だが本当は、京子への思いも絶ち切れていなかったからだということは、認めておかねばならぬ。


 この家は、おれが偶然探し当てたものであるが、不動産の取引を仲介したのは、化野あだしの零児。


 イソベンやバスガールの話によれば、彼は半妖であり、不動産仲介業は仮の姿。本当は、この世と異世界との仲介を行っている。


 ここで、新たな疑問が生じる。


 彼は一体誰に頼まれて、この家の仲介を行ったのか? 家主は誰なのか。おれは選ばれたのか。ただの偶然なのか。


 それとも、この家自体がおれを呼んだのだろうか……?


 次に、 目下もっかおれを一番悩ませている問題。


 それは何と言っても、乱れ髪の出現にほかならない。なにしろ夜中に両腕を絡み付けてきては、「ねえ、抱いて」などと言うのだ。撃退するには、ニンニクと唐辛子をりつぶしたものを塗り付けてやればいいが、代わりに女の顔が天井から落ちてくるから始末に終えない。

 

 細面ほそおもてで、透き通るように色が白い。長いまつげに潤んだ両目。きよさんをこの世に呼んだ張本人と思われるが、清さんは面識がない模様。


 しかし、モンジ老や清さんの鋭い指摘によれば、おれを悩ませているのはそんなことではないとのこと。


 それに影法師の存在も気になる。


 この家の惣領息子であった白河安太郎がその正体と考えられるが、それにしても何故、清さんから姿を隠そうとしたのか。或いはこっそりと彼女を見ているのか?


 さらに新たな疑問。


 清さんが他所よそに嫁いだ後、安太郎やその両親はどうなったのか? これは是非とも清さんに確認しておく必要があるだろう。


 ここを訪れる、他のあやかしたちについても触れておかねばならない。


 豆腐小僧は何処にでも出没するから、特にこの家との関係はなし。おれの幼馴染のようなものだから、考慮に値しないだろう。


 石児童は、おれが子供の時から背負っている妖怪。豆腐小僧と同じようなものだ。


 雨戸荒らしも随所に出没する妖怪であるから、問題なしとしておく。


 モンジ老は口は悪いが、特に害はない。バスガールに頼まれて来ただけであるから問題外とする。


 水かけ女は、寅さんが目撃しただけで、これも問題外でいいだろう。


 バスガールも生意気で癪に障る奴ではあるが、根は善人(?)なのかもしれない。


 ここで、ふっと湧いてきた疑問。


 そもそも何故イソベンの所なんかにいたんだろう。清さんの言うとおり水かけ女の娘ということであれば、もともとここに棲んでいたんじゃないか。


 あれっ? 鏡の中かバスローブをまとってでなければ、人前に現れることができなかったのでは? それなのに、何故イソベンには見えていたんだ? ひょっとして何も身に着けていなかった?


 まあいいや。今度直接聞いてみよう。

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