第32話 禁じられた恋
その後、安太郎は益々優しく接してくれるようになる。彼の両親も、母親を亡くしたばかりの
二人の言っていた「嫁入り」という言葉が、何となく心の隅に引っかかってはいたが、女学校にも通わせてもらい、この家で何不自由なく暮らしていた。
これからも、このままずっとこの家で暮らしていくものとばかり、清さんは一人で思い込んでいたのだった。
ところが、安太郎が高等学校に進んだ頃から、風向きが変わってくる。
清さんが十五歳の時であった。
ある日、清さんが部屋で裁縫をしていたら、安太郎の母親の初枝が来て、
「ちょっといいかい?」
と言う。
改まって何事かと思ったら、突然言い渡された。
もうこれまでのように、安太郎といつもくっついてばかりいてはいけないと。
理由は二つあった。
一つは、嫁入り前の大切な身体であるから、世間様に誤解を与えないようにしなければならないということ。
もう一つは、安太郎が東京帝國大學を目指して猛勉強しているので、妨げにならないようにしてほしいからということだった。
初枝は、言った。
「お前のお母さんが亡くなる前に、私は約束したんだよ。清は、私の手で立派に育てて見せます。そして、きちんとした相手と
清さんが
「だから、女学校を卒業したら、お前も花嫁修業をするんだよ。お前が嫁ぐ時は、私たちが立派な嫁入り支度をしてあげるから、何も心配は要らない。
ああ、でもそれも、遠くない先のことなんだね。それを考えると、私も寂しくてたまらないよ」
清さんは仕方なく、
「これまでも一方ならぬお世話になっておりますのに、そこまでお心遣いいただいて、何とお礼を申し上げたらいいのか……。本当に有難うございます」
と、深々と頭を下げるしかなかったという。
ああ、私は
遠縁とはいえ、私は没落した士族の家系。そのうえ、母はこの
その後、清さんは、なるべく安太郎とは顔を合わせないように気を付けた。
安太郎のほうでも、同様に言い含められているのであろう。食事の時を除いて、二人が出くわすことはほとんどなかった。
たまに出逢うことがあっても、少し言葉を交わす程度で、妙に態度がよそよそしかったし、それどころかぷいと顔を背けて、すれ違うようなことさえもあったのである。
ひどい、と思った。安太郎の親を恨むことはできないけれども、彼のことは恨めしいと思った。そして、その時になって初めて、安太郎がいかに大切な存在であったのかということに、改めて気付かされたのだった。
そうこうするうちに、清さんもとうとう女学校を卒業した。
すると、それを待ちかねたように、安太郎の親がどこからか縁談を受けてきた。相手は、役場の
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