第26話 夏祭りの真実
「ふーん……。まあいいや。ところで、あの掛け軸はいったい何なんだ。汚い染みばかりで、あとは真っ白け。いや、真っ茶色で何もないじゃないか。何を有難がって、あんなものをぶら下げているんだ」
痛い所を突いてくる。
まさか、爺ちゃんが牛の背に乗って、どこかに遊びに行ったまま帰ってこない、などとも言えない。
「あれは、まあ、無用の用ってやつですよ」
「何だって?」
「言ってみれば、あの空っぽの井戸も、何の役に立たないように見えて、実は何かの役に立っているかもしれないってことです」
「へえー。さすがは未来のノーベル文学賞。言うことが違うね、大先生は。意味はさっぱり分からないが」
「先生はやめてください。さっきもヤンマーに言ったばかりです。欽之助という立派な名前があると」
「何、ヤンマー? 欽之助? 芥川賞作家を呼び捨てなんぞできるものか」
「だから、お願いです。僕は先生でもないし、無論、芥川賞作家なんぞでもありませんから。だから呼び捨てにして結構です」
「ふん、お前がそこまで言うならそれでもいいが。じゃあ、欽之助。さっきの無用の用ってやつではないが、本当にあんな井戸の跡が何かの役に立つかもしれないっていうのか? 清さんに言わせれば、水かけ女なんぞという
「ははは、まさか――」
おれはまた誤魔化すしかなかった。
「清さんって、結構澄まして変な冗談を言うんですよ。寅さん、酒癖が悪いから、酔った挙句に変な夢でもみたんでしょう」
「おれが酒癖が悪いって? お前には叶わないぜ。なあ、誠」
言われたほうは、うんうんと頷いている。
「僕が酒癖が悪いんですか?」
おれがぽかんとしていると、二人は顔を見合わせている。
「お前、本当に知らないのか」
寅さんは目を丸くしている。
「なあ、欽之助」
と、今度はヤンマーがおれの肩に手を置いて言う。
「あの夏祭りの日のことだよ。覚えてないのか? お前、散々酔っぱらって、へべれけになって、その上訳分かんないことも口走っていたから、一人暮らしの
「ふーん……。まあいいや。ところで、あの掛け軸はいったい何なんだ。汚い染みばかりで、あとは真っ白け。いや、真っ茶色で何もないじゃないか。何を有難がって、あんなものをぶら下げているんだ」
痛い所を突いてくる。
まさか、爺ちゃんが牛の背に乗って、どこかに遊びに行ったまま帰ってこない、などとも言えない。
「あれは、まあ、無用の用ってやつですよ」
「何だって?」
「言ってみれば、あの空っぽの井戸も、何の役に立たないように見えて、実は何かの役に立っているかもしれないってことです」
「へえー。さすがは未来のノーベル文学賞。言うことが違うね、大先生は。意味はさっぱり分からないが」
「先生はやめてください。さっきもヤンマーに言ったばかりです。欽之助という立派な名前があると」
「芥川賞作家を呼び捨てなんぞできるものか」
「だから、お願いです。僕は先生でもないし、無論、芥川賞作家なんぞでもありませんから。だから呼び捨てにして結構です」
「ふん、お前がそこまで言うならそれでもいいが。じゃあ、欽之助。さっきの無用の用ってやつではないが、本当にあんな井戸の跡が何かの役に立つかもしれないっていうのか? 清さんに言わせれば、水かけ女なんぞという
「ははは、まさか――」
おれはまた誤魔化すしかなかった。
「清さんって、結構澄まして変な冗談を言うんですよ。寅さん、酒癖が悪いから、酔った挙句に変な夢でもみたんでしょう」
「おれが酒癖が悪いって? お前には叶わないぜ。なあ、誠」
言われたほうは、うんうんと頷いている。
「僕が酒癖が悪いんですか?」
おれがぽかんとしていると、二人は顔を見合わせている。
「お前、本当に知らないのか」
寅さんは目を丸くしている。
「なあ、欽之助」
と、今度はヤンマーがおれの肩に手を置いて言う。
「あの夏祭りの日のことだよ。覚えてないのか? お前、散々酔っぱらって、へべれけになって、その上訳分かんないことも口走っていたから、一人暮らしの
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