4節 後 ロスターニャ当日

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 老婆に農作業を教わって一か月くらい経ったであろうか。なんとなくだが鍬の使い方もわかってきて、老婆の仕事を手伝っている、くらいは言えるようになってきた。

「お前さんが来てから仕事がはかどるわい」

 老婆は毎日嬉しそうに言う。

「そりゃばあちゃんの教え方がうまいからさ」

「上手なことを言って」

 慣れてくると正直この生活も悪くないと思い始めた。隣の頑固爺も最近はしゃべるようになってくれた。なにより俺自身が誰かにしゃべる事が増えた。あんなに楽しくないと思っていた会話やご近所づきあいを、今俺は楽しんでいる。

 世界のどこに飛ばされたかは知らないが、このような生き方も悪くない。いや、もうあの世界に戻るのはうんざりだ。どこかわからない世界の片隅で農夫として一生を終える。それでいいじゃないかと考えている俺がいる。

「おーい。マコトゥ」

 隣の頑固爺が少し訛ったしゃべり方で声をかけてくる。力仕事を手伝わせに来たのだろう。この世界では木暮誠とは言いにくいらしい。

「なんだい爺さん。なんかの手伝いかい」

「おう、わかっとるやないけ。さっさとこい」

 ぶっきらぼうに言うとぷいとあちらを向いて歩きだした。

「じゃあばあちゃん、行ってくるわ」

「夕飯までには帰ってくるんだよ」

 返事をして頑固爺の横に駆けていった。


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「だから、もし私でよいのでしたら。そのお望みをかなえたいと考えまして」

 申し訳なさそうな顔をしながら俺を見てきた。屈強な体に似合わぬ顔つきだった。声が震えている。相当緊張しているのだろう。

「いえ、むしろ私からこそ」

「ハーズベルグ」

「はい」

 怯える子犬のような顔をした彼に、一言ぼそりとつぶやいた。

「俺たっての希望だ。ご教授をお願いしたい」

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