第12話

 朝がやってきた。

すっかり怪我も良くなったジャンボは、少し背伸びをして立ち上がり、身支度を整える。

そして台所に立ち、三人分の朝食を作り始めた。


 その音でチョコやバニラも目を覚ます。

のんきにふぁーとあくびをして、顔を洗ってこいと、ジャンボに言われて寝台から降りた。


 朝ごはんは豆乳ベースのスープに揚げパンだ。

出会った最初の頃は、同じ味付けの野菜炒めしか作れなかったのに、ジャンボはずいぶん器用になっていた。

朝日は柔らかく室内を照らし、二人は朝食をとろうと椅子に腰かける。

ジャンボも並んで食べ始めた。

今日はなんの授業があって〜、とか他愛もない話をした。



「怪我はもう大丈夫?」

「ばっちり」



 ジャンボは柄にもなくブイサインをしてみせる。

バニラとチョコはおかしそうに笑った。

そんな顔を見れるだけで幸せだ。


 三人は朝食を終えて支度も終えて、四合院の外へ向かう。

中庭には隣人の姿もあり、行ってらっしゃいなんて声をかけてくれた。

行ってきます、と三人で答えて元気よく外への門をくぐる。


 ここからは別々の道だ。



「ジャンボ、無理すんなよ」

「辛かったら帰ってきてよ」

「お前らは俺の親か?」



 ジャンボは笑って手を振った。



「ありがとう、行ってくるよ。お前らも気をつけてな」

「うん」

「じゃあねー」



 二人は学校へ、ジャンボは撮影所へ、それぞれ歩き出す。



「よぉ、ジャンボ。調子はいいのか?」

「もうバッチリですよ」

「良かったぁ。兄貴なんてね、まだ怪我のせいにしてズル休みしようとしてたんですよ」

「あ、お前、余計なことバラすな」



 駅舎の双子もいつも通りに元気よくジャンボを迎えた。

切符を買って二人に頭を下げて、列車に乗り込む。

1ヶ月の休養後、はじめての仕事だ。

緊張しても仕方ないのだが、どうもソワソワしていた。


 しかし、たどり着いた撮影所の面々はジャンボの回復を心から喜び出迎える。

監督もその輪の中でジャンボの肩を叩いた。



「1ヶ月も待ったんだ。ビシバシ働いてもらうぞ」

「ありがとうございます。代役を頼んでも良かったのに」

「馬鹿なこと言うなよ」



 監督はジャンボを小突く。



「おかえり」



 ジャンボはぐっと涙が込み上げたが、泣く代わりに笑った。



「ありがとうございます」



 さぁ、今日は忙しいぞ、遅れを取り戻さなきゃ。

なんてキビキビと歩き始める監督に合わせるように、スタッフたちも動き出す。

馴染みのヘアメイクも「また厄介事ですか」なんて言いながらも「無事でよかったですよ」とつけ足した。


 また今日からそれぞれの一日が始まる。

ジャンボもバニラもチョコも、今までより少しだけ前を向いて。




終わり

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誘拐(夜光虫シリーズ) レント @rentoon

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