第11話

「よう、ボス」



 病院のベッドの上にも関わらず、狐面を外さずに男は横たわっていた。



「なんだ、飴売り。お前のせいで大怪我だよ」

「元からやる気なんてないって、お互いに知ってただろ」



 あの日の飴売りはとっくに狐面を捨てていて、体には返り血を受けていた。

廊下の前に立ってた護衛という建前の見張りが、血溜まりに腕を沈めている。



「律儀に組に仕えることもないだろ。あのおばさんが実権を握る為の口実みたいなもんだったんだから」



 腹違いの兄のために本気で復讐したい者なんてもともと誰もいない。

コンテナの事件も、真のターゲットは江白じゃない。

そういいながら、飴売りは、狙撃手が持っていた文書をボスにみせた。



「逃げよう。道なら作ってやるよ」



 大きくため息をつくボスから、飴売りは狐面を剥がす。

やめろという前に唇で声を塞がれた。



「ね、面なんかしなくて済む所まで、お供しますよ」

「今は必要だから返せ」



 渋々飴売りは面を返す。

そして二人は外へ歩き出した。

大きな組織に狙われて、生き延びられる可能性があるかといえば、ゼロに近いだろう。

でも、そんなこともどうでもよかった。


 狐面の男と飴売りは、堂々と病院から抜け出した。

その後のことは誰も知らない。

ただ、江白を本気で狙う人間は元々いなかった。

それだけが残された救いだ。


 人混みの中に二人は消えていく。


 狐面の男と飴売りを知ってるかい。

彼らはもう悪さはやめたんだとさ。

そんなおとぎ話を作ってやろうか。

二人は消えそうな笑みで笑った。

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