第8話

 コンテナ船の見張りはほとんどあの場所に集中していたらしい。

潘岳はハンカチで腕を適当に縛って止血し、チョコを抱えて逃げていた。

その後ろを、バニラを抱えて潘雲が走る。

止血したとはいえ潘岳の走るスピードはいつもよりも遅かった。


 目の前に手下が立ち塞がれば、主に潘雲の方が殴り飛ばして逃げた。

武器を構えられたら、潘岳が銃口を向けて、怯んだ隙に潘雲が殴って道を開けてゆく。

その腕にかかえられて、チョコもバニラも大泣きしていた。


 特にチョコは潘岳に泣きながら謝っていた。



「撃てなかった……ごめん……」

「撃たないでくれて良かったよ」



 バニラも泣きながら潘雲に言う。



「こんな酷いことが起きてると思わなくて…ジャンボを助けたかっただけなのに……」

「乗りかかった船だからねぇ。そういえば本当に船の上だね」



 ゆったりと潘雲は答えるものの、道を塞ぐ手下は皆殴り倒していった。

チョコとバニラは自分の無力さを感じてさらに泣く。

それになによりも、あの光景が忘れられなかった。

簡単に人が殺されていった。

ジャンボの手によって。



「ようやく出口みたいだ」



 コンテナの間を縫って、地上と繋がる橋が掛けられているのを四人は見つけた。

相変わらず手下はちらほらいるが、潘岳と潘雲の敵ではない。

ひとまず逃げ出そう。そう思ってはいたのだが。



「ジャンボは……?」



 泣きながら子供たちは口々にジャンボと言った。

もともと助けるために潘岳達は変装までして乗った船だった。

けれど。



「ジャンボは……一人でも逃げられるだろう」



 喧嘩慣れしている列車長の双子でさえ、あの豹変したジャンボの姿を信じられないような気持ちで見ていた。

人を殺すことに全く躊躇いのない動作は、悪夢のようだった。

それはチョコとバニラも同じだろう。

子供に見せるもんじゃない。



「お前らを降ろしたら、ジャンボを探しに行くよ。だから、まずは二人で隠れててくれ」



 もうチョコとバニラは不満も言わずただ頷いた。

こんなにも自分たちが無力だとは思わなかった。

ジャンボと毎日特訓してるのに。


ジャンボ……。



 四人はなんとか逃げ切って、チョコとバニラは物陰にそっと降ろされた。

気が乗らねぇなぁなんて、軽口を叩きながらも、潘岳はすぐに船の方へ戻る。

潘雲は振り返ってちょっと待っててね、と手を振った。


 チョコとバニラはお互いに服の裾を持って、ずっと泣いていた。

ずっと。

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