第5話

 夜の闇の中、息をひそめて過ごしたのは、ジャンボと出会う前の知恵だ。

四合院の中に居るとバレていたとしても、闇に慣れた目と室内の利がある。

チョコとバニラそれぞれ武器を携帯して、寝台の横に座り込んでいた。


 こんな夜を過ごしたのは本当に久しぶりだ。

ジャンボもまだ帰ってこない。それが、こんなにも心細いだなんて。

二人は黙り込み、それぞれの武器を握っていた。


 そんな時、かすかにキィと、四合院の門の扉が開く音がする。

ジャンボか隣人か、それか……。

二人は寝台の影に隠れながら、様子を伺った。

心臓が嫌な音をたてて鳴る。


 足音が近寄る。一人ではない。

呼吸も止まりそうな緊張の中、響いたのはノックの音だった。



「おーい、誰かいるか?」



 二人はばっと顔を見合わせる。

確かに聞き覚えのある声が、外から聞こえたのだ。

しかし、ジャンボではない。



「この声っておまわりの……?」



 おまわりじゃないよぉ、といういつもの声も共に二人は思い出す。

前に落し物をした時に、せっかくだから届けに来たよ、なんて彼らが現れたのも思いだした。

双子の列車長はこの近くに住んでいるらしかった。

しかし、なぜこのタイミングなのだろう。


 バニラは様子を伺うように、足音もなく歩き出す。

チョコもその後をついていった。

向かうのは扉ではなく窓の方だ。

あたりの状況を確認するために、二人はそっと視線を巡らせた。


 次の瞬間、玄関に立つ双子の背後に、狐面の不審者を見つける。



「逃げて!!!!!!」



 バニラもチョコもありったけの大声で叫んだ。

その声に驚き一瞬固まった狐面は、列車長の双子に捕捉されてしまう。



「なんだぁ、こいつは」



 ジャンボの怒声、明かりの着いていない四合院、部屋の中からの叫び声。

何かが起きていることを、双子はついに確信した。

狐面はすぐに臨戦態勢をとり、手にしたナタで潘岳に斬りかかる。

だが、最小限の動きでナタを避け、潘岳は思いっきり狐面の不審者を殴った。

あまりに重い一発に驚き、不審者は間を取ろうと後ずさるが、潘岳はスタスタと詰め寄った。

ああ、兄貴の喧嘩魂に火がついてしまったと、弟の潘雲はため息混じりにその姿を見る。


 だが、そんな兄の死角から、もう1人の狐面が飛び出した。

手には鋭利な斧を持っている。

軽々と掲げて、俊敏に潘岳へと迫った。



「兄貴!!!」



 暗い四合院の庭に、悲鳴のような叫び声が響き渡った。

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