　最初の戦は絶好調そのものであった。

　闇討ちが成功し、当初の予定であった山木館だけではなく、勢いに乗り堤館にも襲撃を掛け、攻め落とした頼朝一党。

　この襲撃で奪った土地の分配を宗時の弟である義時が頼朝に提案し、石橋山の麓に屯することになった。

「義時さん。あなた達の兵は疲れてるだろうが、悠長に地領の分配などやっている暇は無い。先日の堤と山木の一件は既に京へ伝わっているだろう。あなた方は早いとこ何処かに身を隠すか、更に協力者を募りもっと守りを固めた方がいい」

　大雑把だが源氏の苦戦を知っている総一朗（未来人）は義時を煽った。

「いくら兄上が信頼していた御方の助言であっても、兵達の状況を見て総一朗殿は何も感じぬ、思わぬというのですか？今、必要なのは休息と功を挙げた者への褒美です。あなたは我々の兵を道具のように言うが、我らに付いてきた者たちも皆、人でございます！」

　いつもは穏やかだという戦略家の義時であったが、どこの馬の骨かも分からぬ未来人に業を煮やし、思わず言い返す。

「いや、言っているのは京（みやこ）からの討伐軍のことじゃない。それはこの後…」

「この後？討伐…京？総一朗殿、あなた…」

「い、いや。なんでもない。それより今は近隣の平氏側の豪族達に襲われたらどうする？…ここから一番近い平氏方の豪族は誰だ？」

　総一朗は掻きむしりながら頭を抱える。

「ゴウゾク？」

「あぁ、先に討ち果たした目代の山木のような連中のことだ」

「そういうことでしたら…」

　義時は地領の配分に使っていた絵地図をそのまま使い、総一朗に地域の勢力について説明を始める。

「清盛に命ぜられ、佐殿を監視していた伊東祐親。この者は私の祖父なのですが、佐殿をかなり恨んでおります。伊東の一族を味方に引き入れるのは無理でしょう。そして、この酒匂川周辺を牛耳るのは大庭景親。そこから東、三浦の地には源氏累代の家人にして三浦党の惣領、三浦…」

「話の途中でごめんなさいね。あなた今、手持ち勢力は何人か把握している？」

　説明が長くなりそうだったのでここからCMを入れるのではないかと思われる勢いで総一朗が義時の言葉を遮る。

「先の戦いで我が軍門へ降った者も含めると恐らく四百ほど。しかし酒匂川の向こうには三浦殿とその兵が居ます。挟み撃ちを仕掛ければ大庭に負けることはまず無いかと」

「大事なこと忘れてる」

「えっ？」

「あなたのお爺さんよ。数で劣らないなら大庭方について僕らが挟み撃ちにされる可能性もある」

「はぁ」

「それと…もし、もしもだよ。何かのトラ…事情か手違いで、三浦さんが酒匂川を渡れずに加勢出来ないとなったら、あなた…どうするの？」

「そ、そこまでは」

「考えてない、と」

「…はい」

　ため息をつく総一朗。もう嫌な予感しかしなかった。

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