第2話 「爺さんばかりのゴルフコンペ」

 館に到着すると思いの外、多くの武士が参集していた。

 ただ、皆、この時代平安末期としては高齢者ばかりだ。

 見た目は老人だが、現代との栄養事情の差を考えると自分の歳よりは十か二十、三十は若いのだろうが、やはり見た目が自分より歳上に見えてしまうせいか不安しか無い。

 彼らに緊張感はまるで無く、楽しそうに語り合う老兵達。

「大丈夫かい、これじゃ爺さんばかりのゴルフコンペじゃないか」

 心配する総一朗。

「案ずるな。貴殿のような術の使い手がいれば百、否、千人力」

「いや、あれは僕が出したんじゃなくて…」

 宗時は部屋の片隅に二人ほど座れそうな空きを見つけ、そこへ胡座をかき総一朗を手招きするので対面に座る。

「その珍妙な出で立ち、矢を向けられても動じずこちらを睨み返す度胸。さぞかし大変な修行を積まれた御方であることは確か」

 宗時は総一朗のことを完全に陰陽術か何かの使い手と勘違いしている。

「僕はね、超常現象は信じない方なんだ。さっきのだって恐らく…」

「おそらく?」

「いや、そんな事はもういいんだ。それより北条さん、あなたの上司…いや、大将はやはり源氏の?」

 総一朗の知識が正しければ、この時代で源氏の頭領は源頼朝の筈だ。肖像画は何度も見ているが、実際はどんな人間なのかという好奇心を抑えられない。ツラだけでも拝もうとイチかバチかでカマを掛けてみる。

「何故、それをご存知か?」

 初めて遭遇した時に見せたあの形相に戻る宗時。

「この時代、いや、こんな戦を今やるなら…私には源氏の血を引くあのお方しか思い当たらんのですよ」

 咄嗟に言葉で切り返す総一朗。淀みない言葉にほんの一瞬だけ視線を伏せ考えを巡らせた宗時。

「まぁ、よかろう。こういった知らせは早いに越したことは無い。では、案内つかまつる」

 彼は立ち上がる、総一朗を敬老会の大部屋から連れ出した。

 ” 案外すんなり通ったな?何かがおかしい… ”

 総一朗は眉をしかめ、口をへの字に曲げながらも凛々しい鎧武者の後をついていく。


 大部屋から程よく離れた一室の前に通される。

 間取りとしたら四畳半程だろうか。部屋の中で一人静かに仏像に向かい、瞑想する立烏帽子の男。

「佐殿、法皇さまの生霊などではございませんでした。いかづちを放ったのは、この田原総一朗たはらのそういちろうと申す者でございました。じゃあなりすと?とか申す術の使い手だそうで。総一朗殿、こちらへ」

 宗時に背中を押されるがままに前に出る総一朗。

「こんばんわ。田原総一朗たはらそういちろうです。私は…」

「こんな夜更けに馳せ参ずるとは。いや、兵は一人でも多いほうが良かろう。入れ」

 烏帽子の男は背を向け、座したままでちらりと総一朗たちを見る。暫くするとゆっくりと仏像に背を向けしっかりと総一朗の顔を見定める。

 総一朗が目にした頼朝は肖像画とは似ても似つかぬ顔だった。

「あれ?何処かで見たような…」

 二人は同時に声をあげた。

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