田原総一朗氏、平安時代末期に転送されても朝まで無双する

ににに

第1話 「あんたこそ誰だ?」

「あっ、いたたたた…」

 グレースーツに身を包んだ男が暗い林の中で起き上がる。

 は何処だろう?と周囲を見回すが、木々が鬱蒼と生い茂る山中ということ以外分からない。


 ガサッ、ガササッ…ザッ ザッ ザッ …


 人か獣か分からないが兎に角、何かが彼の居る方へ向かってくる。

 咄嗟に傍の大木に身を隠すが、足元の細い枯れ木を踏み”パキッ”と乾いた音を出してしまう。

「誰だ!そこに居るのは分かっている!!」

 人の声。そしてキリリ…と何かが引き絞られる音。彼は隠れた大木の影から様子を見る。平安末期式の鎧に折烏帽子の男がこちらに向け弓を引き絞っている。歴史物のドラマか映画の撮影現場にでも迷い込んだか、と彼が気を抜いた瞬間、


 ドスッ!!


 大木に刺さったのは殺傷用の矢であった。このまま命を取られては堪らんと両の手を挙げゆっくり大木から離れる。

「何だその出で立ちは……」

 自分より高身長の男に怯む武士。

「あんたこそ誰だ?」

 答えにならない答えを鋭い眼光で鎧武者に向ける。

「わ、我は北条三郎宗時」

「北条…宗時?それじゃ今は何年だ?ここは何処だ?伊豆か?石橋山か?!」

 矢継ぎ早に繰り出される質問に宗時は更にたじろぐ。

「あぁ、すまない。僕は田原総一朗。ジャーナリストだ」

「じゃー、なりすと?」

 宗時は聞き慣れない単語に眉をひそめる。

「宗時さん。あなた、今は平氏と源氏、どちらについてる?それだけ分かれば、僕はだいたい予想がつくんだけど」

 総一朗が宗時に核心を突こうと更に質問攻めをする。こうなると止まらないのが田原総一朗だ。

「佐殿と我ら北条で平家を打ち倒す。まずは手始めに目代の山木兼隆を…」

「ってことは、あぁ、源氏側に付いているのね。ところで”すけどの”って人はどんなお人よ?」

「ぶ、無礼な」

「あ~、ごめんなさいね。何故かは僕も知らないが、君たちの時代に迷い込んだばかりで。僕も訳が分からないんだ」

「時代?…では先ほどの雷鳴と昼間になったような光は、貴殿が放たれた術なのか!?」

「えっ、そんな凄い光だった?」

「佐殿が”法皇の生霊が飛んできた”と怯えるので確かめに参った所、貴…」

「僕が居たと」

 宗時の話をぶった切る総一朗。

 その時、月光が自分総一朗が落下したと思われる地点を照らす。直径一メートルほどだろうか、下草が円を描くように無く、地面が二〜三十センチはえぐられたかのように見える。

「あのような術の使い手とあらば、佐殿も喜ぶだろう。付いてくるがよい」

 総一朗は事の全容が解らないまま館へと戻る宗時の後をついていった。

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