黄金の騎兵と遺されし双刃

清泪(せいな)

誓い立てし者

 巨大な槍斧ハルバード金色こんじきに輝き空を薙ぎ、草木もろとも大地を砕いた。


 黄金の甲冑に身を包む巨躯なる騎兵は、その一撃を紙一重で避けたに更なる追撃を加える。

 空気を裂く音と共に水平に風圧が飛ぶ。

 横転して槍斧ハルバードの追撃を避けようとするを見えぬ風圧が押し飛ばす。

 押し飛ばされた身体は荒れた草原へ落とされ、の意識は遠退く。

 朦朧とする視界で最後に見たのは巨躯なる騎兵の駆る巨躯なる黄金馬の蹄だった。



 一人殺めようともは後を絶たない。

 荒れ果てた草原にいくら骸を重ねようと黄金の騎兵の前には現れた。

 それはであって、またでもあった。

 無限に続くかと思われる死闘は、いつも夢か幻の如く呆気なく蹂躙される。

 あるいは巨大な黄金の槍斧ハルバードで、あるいは巨大な黄金の円盾で、あるいは巨大な黄金の蹄で。

 達の表情を悔恨へと歪ませ、容赦なく消し飛ばした。


 黄金の騎兵はその戦いに誓いを立てていた。

 自ら望んだ誓い故、幾度と黄金の槍斧ハルバードを振り、幾度と黄金の円盾で叩き、幾度と黄金の蹄で踏み潰した。

 への情など無く、への記憶も無い。

 延々と繰り返される蹂躙に誓い以外のものなど存在しなかった。



 の構えた盾を弾き飛ばした。

 それが何度目のことか、何人目のことかなど覚えてはいない。

 黄金の騎兵が持つ槍斧ハルバードより遥かに小さな盾を弾き飛ばすなど造作もないことだった。

 は体勢を崩したまま横転して追撃に警戒する。

 黄金の騎兵は槍斧ハルバードを大きく振り上げて、金色輝く一閃を振り下ろした。

 金属がぶつかり、鈍く甲高い音が鳴る。

 の手には元より持ち合わせていた今や折れた曲剣シミターと、錆び付いた長剣ロングソードがあった。

 横転した際に誰とも知らぬ骸から引き抜いた長剣。

 両手に持った二本の剣を交差に構え、槍斧ハルバードの柄を捉えた。

 黄金の騎兵の圧に押し潰されそうになるものの、二本の剣を滑らして前へと一歩踏み込んだ。

 右手に持った折れた曲剣シミターを滑らし、黄金馬の腹部に突き立てた。

 黄金の騎兵の一撃に沈んだ黄金馬の姿勢が跳ね上がる。

 黄金馬は痛みにいななき、黄金の騎兵を振り下ろした。

 巨大なる身体が草原へと打ちつけられ、大地を揺らす。

 砂埃や草や石が舞い散り、合わせるようにが暴れる黄金馬を踏み台にして飛び上がった。

 長剣ロングソードを逆さに両手で持ち構え黄金の騎兵の首元へと突き立てる。


 冷たい感触が身体に突き刺さっていくのを黄金の騎兵は感じていた。

 目に映るのはの愉悦の表情だった。

 初めて見るような、何度と見たような光景だった。


 黄金馬が嘶き遠ざかっていくのが大地の揺れでわかった。

 それは一つの終わりを知らせていて、また一つの始まりを知らせている。

 ああそうだ、誓いはまだ消えはしない。

 黄金の騎兵は薄れゆく意識の中でその感覚を思い出していた。

 何度となく抱いた感覚を、思い出していた。


 いつかのの表情が夢か幻の如く、ぼんやりとしたまま脳裏に浮かんだ。


 自分は今どんな表情をしてるだろうかと、誰の答えもない疑問を思い浮かべた。




 

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黄金の騎兵と遺されし双刃 清泪(せいな) @seina35

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