KAC20222 “推し活”

「やぁ、猫田さん。久方ぶりですな」

「久しぶりじゃな、ナベさん。聞いたかあ?

 最近、ちまたを賑わしてる “推し活” という犯罪を――」



「はて。 “推し活” とは、なんの事でしょうか?」



「はっはっはっ。老けたのぉ、ナベさんは。

 メジャーリーガーのときで、時間が止まとるんとちゃうか?

 ラジオやテレビでもゆうとるやろが、“推し活” は危ないと――」



「いやはや、お恥ずかしながら。

 家には、もうラジオやテレビなんて置いてないものでしてね」



「ほーなら、教えたろや。

 “推し活”ちゅうんわな、『推し込み強盗で、生活する』という意味や――」



「はっはっはっ。猫田さんは、老けましたなぁ」

「なにッ?!」



「それは、まるで意味が違いますよ」

「ど、どういうことやッ!!」



「それはですね、“推し活”ではなく、“萌え活”というんですよ」

「は? そりゃまた、どういうこった?」



「はっはっはっ。

 財界天皇とまで言われた猫田さんにだけ、こっそりと教えてさしあげますよ。

 いいですか。

 熱烈なアイドルファンの方々やヲタクさんが、

 自分のご贔屓さんを指した“裏言葉”という奴ですよ。

 中条閣下にも言われたでしょ?

 『しを取るなら、玉砕覚悟で萌えに行け』って」



「おぉ、中条君か。懐かしいのぉ。あいつは今、何しとるんだ?」

「たしか………………………………………………。

 おニャン子喫茶っで、高血圧で倒れたとか言ってませんでしたか?」



「……メイド喫茶な。おニャン子クラブとまじっとりゃせんかあ」

「そうでした、そうでした。

 そのメイドクラブというところで……」



「いッとらん。……メイド喫茶だっつてんだろうが!

 おんどれ! いにしえのオタクたちを愚弄ぐろうする気か!」



「まあまあ。落ち着いてください、猫田さん。

 かつて【江戸ノ龍】と異名をとったおとこが、マーメイド喫茶で熱くなるなんて」



「だから、メイド喫茶っで言っとるだろ……ゔッ…………」



「猫田さん? どうしました? ねこたさぁあああんんんッ!!! 」




「あのぉ。盛り上がっている所すみませんが、

 そろそろ、お勘定いいですか?

 そろそろ、店を閉めたいんで……」



「あっ。すいません。ちょっと、お酒が入りすぎましたなぁ」



 そう言って、吾人は隣で死んだふりをしている漢の肩をゆすった



「そろそろ、起きてくださいな

 そろそろ……猫田さん? ねこたさぁあああんんんッ!!! 」


「もう、いいよ。

 勘定はタダにしといてやるから。

 もう、こっちは帰りたいんだよッ!」


(いつまで付き合わされるんだよ……)と小声でつぶやく店主



「「よっし!」」と、2人でガッツポーズをとる



「もう、ウチには来ないでくれ!」と、

いかりや長介に似た店主は、怒りながらにそう言った




 まさか――



こんな老いぼれた2人が、あのような事件に巻き込まれてしまうとは……



苦労なんぞ、したくはなかったのですがねぇ……



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る