【終了】『KAC2022 ~カクヨム・アニバーサリー☆ 1~12 』

越知鷹 京

KAC20221 “二刀流”

 -将来の夢-


 吾人ごじんは、非才ゆえに人生に心配した……

最も危惧することは、いつまでも『若さ』を武器にしてゆくことである



 人は、―老いる―



 病気になることに、怪我をすることに、-恐れ-を抱くようになる

これは、恥ずべきことに非ず。-必然-である



『メジャーリーグ』を目指して、邁進まいしんした小学生の頃である



 教員殿に 衝撃的な 言葉を賜りました



「――お前は、バカで単純だから、必ず刑務所に入る」



それは、どんな金棒バットよりも重かった――と、今でも鮮明に覚えております



 ◇



 プロ野球の選手に憧れていた、吾人である


 日夜、コーチの厳しい練習メニューをこなしていたときの事であった



 【 校舎のグラウンドを400周 】



緩急つけての走り込みに根を上げて倒れ込むや、コーチからの叱咤しったが飛んできました


『どうして、この程度の事で息を切らす!

 練習メニューは、山ほど残っとるだろ!』



 吾人が、プロ野球の選手になれば、母親が喜んでくれる

だから、もっと苦労をしろ もっと我慢しろ



そう言われ、疑いもせずに厳しい練習に明け暮れた、あの頃を懐かしく思います


 手には血豆

 足には靴擦れ

 歯茎も腫れあがる


 コーチの口癖は『人生はな。苦労して分だけ、報われるからな!』


 そのコーチの練習メニューが、テレビ観戦や漫画の受け売りで、監督の経験がないことが問題となり、経歴詐称が発覚して退任されました-履歴書の偽造であった-


 吾人は、本当に驚きました



 -幻想-、だったのです



そんなときに出会った教員殿のひと言で、吾人は救われました


「苦労はするな。騙されるな。飯のネタにしかならん。

 ただし、努力はしろ。これは、金を稼ぐたまごになる」



野球の練習に明け暮れ、語学を疎かにしておった罰が当たった、と痛感いたしました



 そんな話を母親にすると、笑いながら日課を与えてきました



【 腹筋1日7,000回 腹筋1日3,000回 背筋1日5,000回 】


『これから毎日、全部1回ずつ増やしていくんだよ。

 メジャーリーガーを目指すんなら、出来て当然だよ。

 努力を身をもって、お知り!』


 ◇


 吾人は、努力と苦労の違いをまだ知りようもありませんでした

なにせ、小学生の頃の話なので……


 『マスメディアは、真実のみを語る』

 『テレビ番組』にヤラセや捏造ねつぞうなんぞがあるとは思わなんだ時代の話です


 プロ野球選手になるには、これくらいは出来て当たり前なんだ、と疑いもせずに20年間は頑張らせて頂きました


 まさか母親が、吾人の-将来の夢-を揶揄からかっておったなんぞとは、夢にもを思っておりませんでした


 母も、本当にプロ野球選手になるとは、夢にもを思わなんだでしょうな

 

 30歳の頃にメジャーリーグへ挑戦し、46歳で日本のプロ野球選手としてパシフィック・リーグで活躍したときは、感慨無量でした


 それから60歳で定年退職の頃合いまで、チームメートと一緒に日本の野球を引っ張ってきたつもりであります


 この頃には、野球に興味を持つひとびとが減ってゆき、サッカーや卓球といった“はいから”なスポーツへと人々の関心は移行してしまいました



 しかし、今でも当時の教員殿の言葉には感謝しとります



 「苦労はするな。努力はしろ――」



 そうそう、言い忘れておりました


この言葉のお蔭で、今でも金を稼ぐために働かせて頂いております


 あの頃にはなかった職業――プログラマーをやらせて頂いております


 作成したプログラムでコンピュータが正しく動くかどうか、何度も確認を行うのが愉しくてしようがありません


 そして、この経験を活かして、地元の少年サッカー団のコーチもさせて頂いております。プログラムという“はいから”な知識を使って、子供らに体力と戦略を叩き込み、無敗の少年サッカー団として。黒いユニフォームの“サョッカー”は、今では、街の人気グループとなっております


 ◇


 今年で「傘寿」を迎えようとしておる吾人は、都心では珍しくなった屋台に大の男と2人でお酒をたしなんでおりました


 隣の御仁は、東大卒の相撲レスラーとして大成した「江戸ノ龍」「ダイヤモンド猫田」などと呼ばれたおとこですな


 あぁ。こやつは、「 外交官×相撲レスラー 」という“二刀流”で、75歳まで政治に埋没した野心の強かったじじいですな



 まさか――



こんな老いぼれた2人が、あのような事件に巻き込まれてしまうとは……



苦労なんぞ、したくはなかったのですがねぇ……



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