【KAC20221】 野田家の人々:二刀流

江田 吏来

第1話 二刀流

 俺の黒歴史をひとつ紹介しよう。


 小学生の頃、ソードアートオンラインのキリトに憧れていた。

 アインクラッドの全プレイヤーのなかで、最大の反応速度を持つ者として、二刀流だったキリト。

 魔剣クラスの性能を誇るエリュシデータと、仲間に頼んで作ったダークリパルサーからくり出される剣技の威力が絶大で、かっこよかった。

 だから俺は右手と左手にそれぞれホウキを持って、仲間と一緒に二刀流ごっこで遊んだ。


 中学生になると全身黒ずくめの服を着ていた。

 今でこそコスプレは輝いているが、思い返すと未熟で稚拙なファッションだった。

 キリトのセリフをマネした言葉遣いや、本格的な二刀流の練習など。当時を思い出すだけで顔から炎が噴きだしそう。

 きっとなにかの病にかかっていた。そうに違いない。


 現在は病から解放されて、正気に戻っている。だが、最近また「二刀流」というキーワードを耳にするようになった。

 投手と野手を同時に、しかもハイレベルでこなしている大谷選手だ。

 日本のプロ野球や大リーグの常識をかえた偉人の登場だった。


 俺のなかで二刀流は、剣や刀を持って戦うことのみ。

 ふたつの物事をうまく、同時に扱うことができれば二刀流になる。そのことをはじめて知った。

 そして世の中には二刀流があふれている。


「ワンコとニャンコの二刀流」

「学生と社長の二刀流」

「市の職員だけど漫才師。異色の二刀流」


 などなど。

 マネできないすごい二刀流からゆるいものまで、相反する嗜好しこうをうまく扱えばすべて二刀流になる。

 そもそも剣術を巧みに扱う二刀流は現実的ではない。銃刀法違反だ。

 今の世にあふれている二刀流なら、俺にもできそうな気がしてきた。


「なあ、俺にぴったりの二刀流ってなんだ?」


 こたつで背を丸めている弟に聞いてみた。

 一瞬、面倒くさそうな顔をしたがすぐに答えてくれた。


「バカとアホの二刀流」


 いや、それは二刀流なのか?

 どちらも間抜けでつながっている。

 とりあえず弟は蹴り飛ばして、オカンに聞いてみた。


「はあ? 二刀流ってオオタニサーンみたいな?」


 夕食の準備で忙しいオカンは、邪魔だと言わんばかりの面構えだが「んー」と首を傾げて考えてくれた。


「馬と鹿の二刀流ね」

「…………」


 オカンを蹴るわけにはいかない。

 だがここでハッとした。

 オカンも弟も二刀流の知識が「右手と左手に、それぞれ武器を持つ」で止まっているのではないか。

 相反する嗜好という概念がまるでない。


 バカという人がバカだった。

 でもこれが野田のだ家の人々。

 俺の大切な家族なのだ。(弟をのぞく)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20221】 野田家の人々:二刀流 江田 吏来 @dariku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ