第5話 お兄ちゃんッ、どこに行くの? 私も連れて行ってよー

 日曜日。今日は比較的、日差しが強く、自室に太陽の陽ざしが入り込んでくる。

 重要な日なので、晴天でよかったと思う。

 学校にも行かなくてもよく、多少は気が楽なのだが、自室にいる隼人は、どこか不安な感情を抱きつつあった。


 はああ……。

 隼人はタンス前で服を着替えながら、朝から重いため息を吐く。

 その悩みの元は、すでに近くに存在しているのだ。


「おにいちゃーん、どこに行くのッ」


 軽い足取りで近づいてくる義妹。

 可愛らしいピンクと白色の長袖とスカートに身を包み、普段通りにツインテール風の髪形をしているのだ。

 那遊は甘い口調で、誘惑するかのように、脇腹のところを触ってくる。


「ちょっと、くすぐったいからやめてくれ」


 性感帯を刺激され、隼人は、不覚にも笑いたくなったのだ。

 く、苦しい。


「いいじゃーん、家族なんだし別にいいでしょー」

「別にいいけど……今は着替え中だから、やめてくれ。あと、少し離れてくれないか?」

「えー、お兄ちゃんが、どこに行くのか教えてくれるまで離れたくなーい」


 那遊はさらに体を強く抱きしめてくる。

 ヤ、ヤバい、本当にくすぐったい。

 着替えに集中できなくなってきた。


 これでは幼馴染との待ち合わせに遅れてしまう。

 何とかしないと。


「俺は今から、春奈と遊びに行くんだよ」


 脇腹の部分がどうにかなってしまいそうで、ストレートに話す。


「へえー、遊びに?」

「ああ」


 隼人は頷いた。


「じゃーぁ、私も一緒に行ってもいい?」


 小動物のように、甘えた口調で、聞いてくるのだ。


「なんで?」

「だって、私、休みなのに、一人でいるとか寂しいし」


 今日は両親がいない。

 父親は会社の都合というか、普段から忙しすぎて、基本的に自宅にはいないのだが。こればかりはしょうがないと思う。


 義母も何を思ったのか、父親の会社に出向いて行ってしまい、不在なのだ。

 今まで父親と再婚する女の人は、大方地雷系が多く、夜遊びしたり、金遣いが荒かったり、食事すらも作らなかったりと、散々だった。


 今回の再婚相手は、父親とも仲が良く、仕事を手伝うほどの関係なのである。

 まあ、不祥事にならない程度の相手でよかったと思う。

 ただ、その再婚相手の義妹が、逆に色々と厄介なのだが……。


「だったらさ、友達のところに行けばいいんじゃないか?」


 隼人は提案する。


「今日は皆ね。用事があって、遊んでくれないの」


 那遊は悲し気な顔をする。

 普通にしていれば、どこにでもいる小学生の女の子だ。


「そうか。そういう時もあるだろうし、しょうがないんじゃないか」

「だから、お兄ちゃんのところについていきたいの」


 隼人の体に抱きついている那遊は、上目遣いで見つめてくるのだ。

 そういう顔はやめてくれ。

 誘惑しないでくれ……。

 小学生に好意を抱くとか、そんなのないし。

 隼人は、ロリコンではないと、何度も自身の心に言い聞かせていた。


「えー、つまんないー、どっかに行こうよー」

「俺も用事なんだよ」


 今日は大切な幼馴染との約束がある。

 告白するなら、今しかないと思い、だから昨日恋愛ゲームをして、シミュレーションを立てていたのだ。


「せめて、一緒に行かせて?」

「無理だ」


 きっかりと断った。


「じゃあ、お母さんに、言いつけるけど?」

「何を? どういう風に?」

「お兄ちゃんが私にエッチな事をしてきたって」

「なッ、そ、それはやめてくれ」


 隼人は動揺してしまう。


「だったら、私も連れて行って。そうしたら、告げ口しないし」


 え?

 連れて行かないといけないのか?


 というか、このまま放置したら、義妹を一人で留守番させることになってしまう。

 義母がいてくれればよかったのだが、そう都合よく、帰ってくる感じもしなかった。

 仮に一人にさせて、なんかあった場合、責任なんて取れない。


「……しょうがない」


 隼人はまた大きなため息を吐き、諦め、那遊を連れて街中に行くことにした。


「やったー、一緒に行ってもいいんでしょ?」

「ああ。いいけどさ。変な事をするなよ」


 一応、忠告のような感じに口にした。


「変なことって何、お兄ちゃん?」


 那遊は指を口元に当て、首を傾げている。


「変なことって言ったら、変なことだよ」

「私、わかんないしー、なんのことなの?」


 とぼけた感じに言う。

 絶対にわかっている顔だ。


 ここは冷静に対応した方がいいだろう。

 余計な発言でもしたら、後々厄介だ。


「変なことっていうのは、俺の秘密を、春香に言うなってこと」

「へえ、なんか、普通だね。お兄ちゃんが、変なことっていうくらいだし、もっとエッチなことだと思ったんだけど」

「なんだよ、エッチとかさ。俺は普通だし」

「だって、昨日、エッチなゲームしてたじゃん」

「ち、違うから、あれは恋愛ゲームって言って、健全なものなの」


 那遊とは顔を合わせずに、言い切った。


「健全? なんか、パソコンの画面に映ってた男子が女子のおっぱいを触ってるシーンがあったけど?」

「な、そ、それは、偶然そうなったシーンなの」


 それは、ラッキースケベというシチュエーションだ。


「へええ」


 那遊はニヤニヤと口元を緩ませていた。


「お兄ちゃん、そういうの好きなんでしょ?」

「好きっていうか。まあ、好きかもな……」


 なんでこんな事を、小学生の前で言わなきゃならないんだろ。

 急に恥ずかしくなってきた。


「じゃあ、私の見せてあげよっか」


 那遊は自身の胸を両手で触っている。

 触っているというか、指先で揉んでいる感じだ。


「私、結構あると思うよ」

「んッ」


 変な目で見てしまいそうで、隼人はサッと視線を逸らす。


「なにー。もしかして意識しちゃってるの?」

「違うし」

「私、見せるけど?」

「ど、どうせ、俺をからかってるだけだろ?」

「本当に見せるよ。見たい?」

「……み、見たくないし。俺、小学生のには興味、無いし……」

「むッ、何よ」


 バン――ッ


「イテッ」


 いきなり、義妹から足を蹴られてしまった。


「あッ……な、何すんだよ」


 しかも当たり具合がキツい。

 丁度いい、足の筋のところを蹴られてしまい、跪いてしまう。


「バカにしたでしょ」

「ご、ごめん、そういうつもりじゃなくてさ」

「私をバカにして随分と偉そうね、お兄ちゃん?」

「ごめん」

「というか、幼馴染と遊びに行くんでしょ?」

「そ、そうだよ」


 隼人は痛めたところを片手で摩っていた。


「じゃあ、アレをやってもらおっかなー」

「あ、アレって何?」

「それは、後での内緒」


 那遊は人差し指を、隼人の口元に当てていた。

 小学生の指先は柔らかい。


 それよりも、隠し事される方が怖いんだが……。

 どうなってしまうんだろ。

 そんな中、那遊は何をしようか、ワクワクした顔を見せていたのだった。

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