第4話 那遊ちゃんって、そういう風な事をする子なのか?

「これって、こうした方がいいのか? いや、それとも」


 隼人は悩んでいる。

 土曜日。自室にいる彼は、パソコン画面を前の椅子に座り、作業をしているのだ。

 画面上には、制服を身に纏った女の子らが映し出されていた。


「このシチュエーションだと、この選択肢がいいのか?」


 隼人は画面上に表示された三種類のセリフに迷っていた。

 そのセリフの返しによって、女の子との関係性が大幅に変わってしまうからだ。

 彼が今、プレイしているのは、恋愛シミュレーションと呼ばれるゲーム。


 恋愛に疎いため、ゲームを通じて、女の子との関わりを学んでいる感じである。

 どういった返しが一番適しているのか考えてばかりだ。

 恋愛に奥手なため、未だに幼馴染に告白できていないのだが……。


「じゃあ、今の雰囲気的にこの返しの方がいいかな? ああ、そうだな。この返しでうまくいくはずだ」


 隼人が、三種類の内、二番目のセリフにカーソルを当て、左クリックした。

 これで……。

 あれ?


 現実は違った。

 画面上に映っている女の子の表情が暗くなる。

 少々睨まれたのだ。

 まったくもって不正解であり、画面上に映っている女の子から振られてしまった。


 え、ええ⁉

 ど、どうしてだ?

 最善の策だと思い、選んだセリフだった。


 あああ、なんで⁉

 隼人が頭を抱え、俯き悩んでいると、背後から気配を感じる。


 ん……?

 不思議に思い、顔を上げ、振り返ろうとする。

 と――


「ふーん、お兄ちゃんって、こういう風なの好きなのー」


 背後からやってきた子に、耳元で囁かれる。

 嫌らしい吐息に、心がフワッとした。


「う、うわッ、な、なに⁉」


 隼人は驚き、椅子から滑り落ちてしまったのだ。


「イテテテ……」


 尻もちをついている。

 上を向くと、そこに佇んでいたのは、ピンク色のTシャツ姿の義妹――那遊であった。

 というか、勝手に入ってくるなよと思う。


「ど、どうしたの? 那遊ちゃん?」

「お兄ちゃん、どうしてるのかなって。ちょっと、気になってきちゃった♡」

「そ、そうか」


 那遊は父親の再婚相手の連れ子である。

 出会った一日目は、おとなしい感じだったのに、好きな人がいるという発言をした瞬間、豹変してしまったのだ。


 一緒に生活し始めて、四日目。

 那遊と一緒にいると、何が起きるのか予測がつかず、怖い。


「お兄ちゃんがやってるのって、エッチなゲームなの?」


 義妹はパソコンの画面を見ていた。


「ち、違うから」


 隼人がハッキリと言い切り、床から立ち上がり、一先ず椅子に座り直したのだ。


「じゃあ、どんなゲームなの?」

「普通のゲームさ」

「へえ、普通のゲーム? 画面には、女の子ばかりだよ。お兄ちゃんには、好きな人がいるんですよね? それって浮気じゃないの?」

「浮気じゃないさ。二次元と三次元を一緒にしないでくれ。俺はこのゲームを通じて、女の子との接し方を学んでるんだ」

「へえ、こういう風なのに頼ってるの?」

「そうだよ。別にいいだろ。それと、那遊ちゃん。勝手に人の部屋に入ってきちゃダメだよ」

「どうして? 一緒の家族でしょ?」

「そうだけど。一応、隠したいこともあるだろうしさ。那遊ちゃんも、勝手に部屋に入られたら嫌でしょ?」

「えー、別に」

「困らないの?」

「私は別に見せてもいいよー」

「え?」

「なに? 想像しちゃった?」

「べ、別に何も……」


 隼人はサッと視線を逸らす。

 な、なに、義妹に心が揺れてんだよ……。

 彼は気恥ずかしくなった。


「お兄ちゃんがそんなに女の子に興味があるなら、見せるけど」

「え? い、いいよ」

「私、何を見せるか、言ってないんだけど? もしかして、エッチなことだと思った?」

「ち、違うから……」


 な、なんなんだよ……。

 隼人は小学生相手に動揺していたのだ。


「お兄ちゃんって、ロリには興味ないって感じ?」

「俺は普通だし……そういう風なのには」


 決してロリコンではない。

 それは断定できた。


「へええー、そう」


 生意気な表情を見せる那遊。

 何かを企んでいるような顔つきである。


「お兄ちゃんって、童貞?」

「⁉」


 想定外のセリフに、義妹を思わず二度見してしまった。


「なんて?」

「だから、お兄ちゃんって、童貞なのってこと」

「な、なんで、そんな事を聞いてくるんだ?」

「だって、お兄ちゃんの事、もっと知りたいなぁって思って」

「そ、そうか」


 なんか、この子にはすべてを話してはいけないような、そんな気がするな。


「ねえ、お兄ちゃん。どうなの?」

「那遊ちゃんの想像に任せるよ」

「じゃあ、童貞ってことでもいい?」

「な、なんでだよ」

「だって、想像に任せるって言ってたじゃん」

「だからって……」

「ねえ、お兄ちゃんってこういう風なの好きでしょ?」


 義妹は、身に纏っているTシャツの襟部分を掴み、服の中身をチラチラと見せてくる。

 見えそうで見えない。

 ――って、小学生の下着なんか……。


「お兄ちゃん。見たいでしょ?」

「い、いや……」

「でも、動揺してるでしょ?」

「し、してない……」

「でも、下半身の方は、反応してるよ」

「え?」


 隼人は下半身を見やった。


「きゃはは、もう、お兄ちゃん、やっぱ、反応してるじゃん」

「……」


 どうしたらいいんだ?

 この子って……まさか、メスガキ的な、そんな感じの子なのか?


 義妹はニヤニヤと企みの顔を見せている。

 この子と、今後も生活していかないといけないのか。

 そう思うと、少々気が重くなるのだった。

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