第2話 おはよ、隼人。一緒に学校に行こッ

「おはよ、隼人」

「お、おはよ」


 朝、隼人が通学路を歩いていると、後ろの方から飛び出すように、幼馴染の佐々波春奈が挨拶してくる。

 いきなり過ぎて正直ビックリした。

 笑顔を見せる彼女は、隼人の隣を一緒に歩き始めるのだ。


 春奈はショートヘアの髪型が特徴的。活発で、クラスでは人気者の部類。そして、陽キャ寄り。どう考えても、平凡な暮らしをしている隼人とは、普通であれば接点のない存在。

 ただ、昔からの幼馴染ということもあり、気の知れた仲で、たとえ、陽キャ寄りであったとしても、隼人にだけやけに親切にしてくれる。


 だからこそ、隼人は、彼女に抱くことになったのだが……。

 春奈はどう思っているのだろうか?

 隼人のことが好きなのだろうか?

 気になってしまう隼人がいた。


 けど、気恥ずかしく、聞きだせない。

普通に会話するだけならまだしも、本音で告白するのには抵抗があり、なかなか口にできないものだ。


 ただ、好きという発言をすればいいだけ。

 たった、それだけの行為なのだが、途轍もなく勇気がいるのだ。

 実際にそれを経験している隼人は、痛いほど痛感していた。


 それにしても今日の春奈はやけにテンションが高い。

 普段から明るい彼女だが、今日は一段と気分がいいようだ。

 春奈は調子よく話を進めてくる。


「ねえ、そういえばさ。昨日、隼人の家に知らない人が入っていくのが見えたんだけど。誰だったの?」


 簡単な世間話風に質問してくる。


「見てたのか?」

「うん、ちょっとね。隼人と途中で別れた後、お母さんから買い物的なものを頼まれてさ。なんとなく、隼人の家の前を通ったの」

「俺の家の前を? な、なんで?」


 抱いた疑問を解消するために問う。


「なんでって、べ、別にいいじゃない。私の勝手でしょ?」


 春奈は腕組みしながら、強い口調で視線をそらしながら言う。

 なんか、怪しい。

 何か隠しているような気がして、隼人の心の中で、モヤモヤが増加してくる。


「でも、買い物だったら、俺の家の前を通ると遠回りになるんじゃ」

「別にいいじゃない」


 隣を一緒に歩いている春奈は頬を膨らませ、なんだっていいでしょ的な顔を見せている。

 彼女も一人の女の子だ。何か隠したいことが一つや二つあっても何ら不思議ではない。


 ただ、そういう言動をするということは、もしかすると気があるのだろうか?

 という、淡い希望を隼人は抱いてしまっていた。

 実際のところ、どうなんだろ。

 隼人はチラッとさりげなく、隣を歩いている彼女を見た。


「な、なに?」


 春奈からジーっと見られる。


「いや、なんでも……」


 あああ、どうして勇気を出せないんだ……。

 素直に告白できればいいんだけどなあ。


 隼人は、自分の消極的な性格を恨んだ。

 本当に好きな人は、すぐそこにいるはずなのに、どうしてもストレートに口にできず、隼人は自分を呪いたくなった。


「一応ね、話を戻すけど。昨日、隼人の家に入っていった人って誰だったの?」

「それは、なんというか、俺の新しい家族っていうか。父親が再婚したんだよ。昨日さ」

「え、え⁉ そ、そうなんだ、私知らなかったんだけど……」


 春奈も素直に驚いている。

 彼女の佐々波家と、隼人の如月家は昔から親同士の仲が良い。

 仲が良いのは、それぞれ、高校や大学で親しかったからだ。


 普通であれば、父親が春奈の親に伝えていてもおかしくないのだが、今回はそういうことをしなかったらしい。

 ゆえに、彼女も何も知らなかったのだろう。


「でも、突然よね。何があったの?」

「さあ、俺もわからないよ……父さん、いつも急だからな。仕事のことはしっかりとしてるけど。家のことになると、色々あってさ」

「まあ、そうよね。あなたのお父さんって。仕事熱心だよね」

「まあ、それはいいんだけどさ。はああ……、昨日から大変だったよー」


 隼人は大きなため息を吐いた。

 朝っぱらから、ため息とか後先が悪い気がする。


 それにしても、同居することになった義妹――那遊は不思議な感じだった。

 昨日は初対面ということもあり、そこまで会話をすることはなかったが、雰囲気的におとなしい感じだ。


 まあ、二次元のように、恋愛関係までは発展しないだろう。

 そもそも、初めてできた義妹であり、どういう風に関わっていけばいいのかわからないというのが本音だったりする。


「それでさ、小さな女の子も一緒にいなかった?」

「ああ」

「もしかして、昨日から同棲してるのよね?」

「同棲って、そりゃ、再婚相手の連れ子だしさ。一人だけ、別のところで生活させるわけにもいかないし」

「だ、だよね」


 春奈は相槌を打つように頷き、反応を見せる。


「どうした、春奈? さっきから何かおかしいけど?」

「え、べ、別に、んん、なんでもないよ、き、気にしないで」


 大丈夫か?

 好きな人が悩んでいるなら力になりたいし。話を聞いて助けてあげたい。

 隼人が、春奈に声をかけようとした直後――


「あ、そうだ。私、ちょっと用事思い出した。そうよ、そう、今日は朝練だったわ。じゃ、これでね」


 朝練?


「お、おい。ちょっと……」


 そう話しかけた時にはもう遅い。

 春奈は走って、学校へ行ってしまったのだ。

 彼女は陸上部に所属していることもあり、走り出しが良く、すでに遠くの方に移動していた。


 大丈夫かな……。

 というか、今日は朝練とかなかったはずなんだけどな。


 隼人は心配し、心のどこかで疑問を抱きながらも、一人で通学路を歩き始めるのだった。

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