俺に好きな相手がいるとわかったら、父親の再婚相手の娘が、なぜか悪戯をしてくるようになった。

譲羽唯月

第1話 父親の再婚相手の義妹は…小学生⁉

「え? 義妹が……できるって?」


 学校帰りの平日の夕方。

 幼馴染の春奈と途中で別れ、帰宅すると、すでに家にいたスーツ姿の父親から言われ、正直驚いていた。


 今まで如月隼人には、兄妹がいなかったからだ。

 どんな子が妹になるのか、嬉しい反面。本当に一緒に生活していけるのか、不安さも抱いていた。


「それでな、あと少ししたら、その再婚相手の女の人と、その連れ子が来るんだ」

「もう?」

「そうだが?」

「いきなり過ぎない?」

「でもな、父さんは仕事が忙しくてな。今日しか時間がなかったんだ」

「だからって、急すぎるって」


 隼人はいきなり疲れた。


「まあ、再婚相手が来たら呼ぶから。それまでは自由にしておいてくれ」

「う、うん……」


 父親から言われ、ただ、頷くしかできなかった。

 一体、俺の人生はどうなってるんだと思う。

 どんな妹なのだろうか?

 不安もある。

 緊張もするし、ソワソワもしてしまう。


 心を落ち着かせた方がいい。

 隼人は一度、自室へ向かい、勉強机前の椅子に腰を下ろした。


「どうしようかな。というか、義妹って何歳くらいなんだろ? 同世代? 年下? まあ、義妹ってくらいだし。確実に年下だよな」


 隼人は今、高校二年生である。

 ――となると、憶測だが、義妹になる子は高校一年生以下である可能性が高い。


 同じ屋根の下で、まさか付き合うとか……。まあ、そんなことはないか。

 と、色々な妄想を膨らませながら、隼人はニヤニヤしていた。


 だがしかし、隼人には一応、告白したいと思っている幼馴染がいる。

 義妹と付き合ってしまったら、漫画のように修羅場になりそうだ。


 第三者として見る分には楽しい気もするが、当事者になったら尋常じゃないくらいキツいだろう。

 そういうところは気を付けないとな。

 と、自分に言い聞かせていた。






「隼人。そろそろ、来るから、一階に降りてきてくれ」


 一階の方から、父親の声が聞こえてくる。

 隼人は椅子から立ち上がり、自室を後にした。

 階段を降る。


 その直後、玄関の扉が開いたのだ。

 ヤバ、もう来たのか。


 そうこう思ってると、最初に入ってきたのは、身だしなみを綺麗に整えた四十代くらいの女性。と、その後ろからは……。

 ツインテールの髪型が特徴で、ピンクや白色が好きそうな感じの私服を身に纏う女の子。


 小学生……?

 父親の再婚相手と思しき連れ子は、まさかの小学生の女の子だった。

 一個年下とか、そういう感じではなかった。

 少しだけ、残念な気分になる。


「あなたが、あの忠司さんのお子さんですか?」

「え、あ、はい」


 隼人は頷くように返答した。

 忠司というのは、父親の名前である。


 それにしても、綺麗な容姿の女性。

 話し方も落ち着いていて、好感を持てる感じだった。

 この人が、新しい母親などだと思うと、心がふわっと軽くなった気がする。


「おお、ようやく来たか。こっちが、息子の隼人だ。よろしくな。那遊ちゃんも、これからよろしくね」


 父親はリビングから姿を現すなり、気さくな感じに話し始めていた。


「はい」


 再婚相手の女性の連れ子は軽く反応を見せる。なんかおとなしい感じだ。

 そこまでテンションが高くはなく、平凡そうである。


「では、こっちで話そうか。亜弥さん。那遊ちゃんも一先ず、上がってくれるかな」


 父親は先手を切って、家にやってきた二人をリビングへと案内する。

 隼人は最後にリビングに入るのだった。


 再婚相手と連れ子は、並ぶようにソファに腰かけている。

 テーブルを挟み、対面上に父親と隼人がソファに座っている感じだった。


「それで、早速なんだが……」


 刹那、スマホが鳴る。

 その音は父親のモノから響き渡っていた。


「あ、すまん。少し会社からだ。ちょっと、待ってほしい」


 そういうと、父親はリビングから姿を消した。


「忙しいのね」

「あ、はい、そうみたいですね」


 隼人は再婚相手にそう返答した。


 父親は、とある会社の社長であり、忙しい。

 基本的に家には帰ってこないし、普段から隼人は一人で生活しているような感じなのだ。


「……」

「……」

「……」


 無言が続く。

 三人もいるのに、誰も話さないというのも気まずさをさらに加速させた。






「えっと、ごめんな。やっぱり、ちょっと時間がないみたいなんだ。隼人、少し会社に行ってくるから。亜弥さんも那遊ちゃんも今から普通に生活してていいから。引っ越し代とかは自分が払うから、日程が決まったら教えてくれれば、こっちでなんかとするよ」


 父親は忙しなくリビングに姿を現すなり、サッと自宅から姿を消してしまったのだ。


 何やってんだよ。

 と、隼人は思う。

 でも、それは父親の仕事の都合上しょうがない。

 殆ど休みなどなく、他人のために働いているからだ。


「でも、そういうところもいいのよね」

「え?」

「いいえ、私の独り言よ」

「そ、そうなんですね……」


 再婚相手の女性は、そういうところを見て、父親と結婚しようと思ったようだ。

 確かに、真剣に何かと向き合っている人は輝いて見えるに違いない。

 今まで父親と再婚相手になる人は皆、お金目的ばかりで長続きしなかった。


 どれくらいだろうか。

 父親が再婚した数は、片手では数えきれないほどだ。

 一週間で離婚したケースもあったはずである。

 まあ、今回は何とかなりそうで、ホッとするのだった。


「隼人さん、ちょっと、キッチン借りてもいいかしら?」

「え、はい、いいですよ」

「お腹とかすいてるでしょ? 何がいいかしら?」

「えっと、なんでもいいですよ」

「本当に?」

「はい」


 隼人が再婚相手の女性と会話していると、なぜか、対面上のソファに座っている連れ子がジーっと見つめてきているのだ。


 一体、どうしたんだろうか?

 他人からじろじろと見られるのは気恥ずかしい。


「じゃあ、手始めにカレーでもいいかしら?」

「は、はい」


 隼人は頷くのだった。

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