第3話


「王太子位が決定されていない状態で、ギルバート殿下を廃するのですか?」


どう考えても王妃様と宰相閣下を刺激する行為。悪手でしかありません。

あの国王陛下にそんな大胆な行動ができるでしょうか?

それとも国王陛下の後ろに誰かいるのでしょうか?


「廃する理由はギルバート王子ではなく、その妻にあるのだがな」


「リリーのことですか?」


「そうだ。あの女はマリアンヌから婚約者を盗み取った上に図々しくも王子妃になったが、まともに公務をこなしていない」


伯父様は相変わらず義妹のリリーがお嫌いのようですわ。無理ありません。ですが、王子妃になったといっても半分以上は伯父さま達の嫌がらせのせいですよ?

あちらの両陛下はギルバート殿下とリリーを婚姻させるつもりは無かったというのに、伯父さま達が圧力をかけて二人の婚姻をさせるように依頼脅迫したのですから。

まあ、私も後押しさせて頂きましたけどね。

私の場合はですよ?

想い合う恋人達が結ばれないなんて可哀そうではありませんか。


「確か、ギルバート殿下は外交方面を任されていましたけど、その件でしょうか?」


「ああ。勝手に婚約解消した汚名返上のために外交を任されているそうだ。国内貴族からの支持が集められない第一王子に配慮した結果であろう。国内公務をこなしても協力してくれる貴族も少ない。思った通りの公務は出来ない事は明らかだ。それなら、外交で打って出た方が勝算もあると踏んだのだろう」


「有りえる事ですね」


「第一王子が外交で成果を出したとなれば、おのずと見方も変わってくる。外交成果を手土産に国内公務に従事する狙いだったのだろう」


「上手くいってないのですか?」


「妻に選んだ女が悪かったな」


最初はギルバート殿下に連れ立って外交の場に参加していたリリーですが、通訳を介していないと交渉相手と話すことも出来ない上に、立ち居振る舞いが下位貴族のもの。早々に外交官達の奥様方の輪から外されたそうです。

それを聞いた時は、無理からぬ事、と納得しました。

小国ですが、ノルデン王国は流通の要所。そのため王族は最低五ヶ国語は話す事ができなければ話になりません。各国の外交官を相手にしなければならないのですから当然のことですし、国の代表といっていい外交官は高位貴族が多いのです。

通訳を介することも別に悪い事ではありません。

最初は、通訳を利用して会話に入っていき、次第に慣れていけばいいのですから。

恐らくリリーは通訳を介しても会話についていけなかったのでしょう。外国語だから出来ないのではなく、高度な外交交渉の話が理解できなかった故に無視される事になったに違いありません。

外交官は高位貴族の中でも優秀な人がその地位に就きます。勿論、身分が低い外交官も国によっているでしょうが、そういった人達も自国が侮られないように高度な教育を受けるのです。

ただ頭脳明晰なだけでは外交官など出来ません。

ウィットに富んだ会話、優雅な立ち居振る舞い、知識の豊富さ、完璧なマナー。


その中でリリーの存在は、さぞかし浮いた事でしょう。『場違いな者』と思われたはずです。


外交以前に、リリーには高位貴族の振る舞いは出来ません。それというのも義母が男爵家出身だからです。当然、その娘であるリリーも下位貴族の教育しか受けていませんでした。それは彼女が公爵家の令嬢になった後も高位貴族の教育を受けたとは聞いておりませんので、マナーは下位貴族のままなのでしょう。


ギルバート第一王子もリリーのマナーについては気付かなかったのでしょうか?

私の義妹であり、公爵令嬢だからこそ高位貴族の振る舞いが出来ると思い込んでいたのでしょうか?

四六時中一緒にいたのですから、リリーの至らなさは分かっていた事でしょうに。それとも、リリーを偏愛するあまり目が曇ってでもいたのでしょうか?


あの時のギルバート第一王子なら有りえる事かもしれません。

そうでなければ、リリーに『王子妃教育』をしっかりと仕込んでいるはずですもの。

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